侵蝕的恋心番外編

 

悩める智早と文化祭
 麻生 智早はあることを企んでいた。

 今日は文化祭。文化祭と言えば愛しい恋人と校内をまわり、果てには・・・。

 無意識のうちに薄ら笑いを浮かべて周りに不気味がられていることに、智早は気付いていない。

 その時、視線の先に見つけたハジメの姿に、思わず智早は小走りに近寄っていった。

「あ・・・先輩。おはようございます」

 慌しい足音に振り返ったハジメが智早に気付き、にっこりと微笑って挨拶をする様子に智早は押し倒したい衝動を何とか抑えると、企てていたことを口に出す。

「おはよ。あのさ、今日一緒に・・・」

 まわろうか・・・。その言葉が智早の口唇からでることはなかった。

「すみません・・・僕、実行委員なので・・・」

 口が開いたまま、というのはこんな時に使うのではないだろうか、と智早は思う。

 呆然としたままハジメを見詰める智早に、ハジメはすまなそうに顔を歪ませる。

「・・・もっと早く言えばよかったんですけど・・」

 いや、そういう問題ではない。そうだ。今の問題は・・・!!

「何でハジメちゃんは生徒会やってんのに、訳わかんない実行委員までやってるんだよ!!」

 誰もやらなくて、仕方なく教師に頼まれたとか? 

 クラスメイトに押し付けられたとか?

 も、もしかしてイジメで・・・!!

「あの・・・生徒会役員は基本的に実行委員会に入る決まりになってるんです」

 色々と妄想にふけっていた智早はハジメの声に躯を止まらせた。

「え・・、あ・・そう・・・だったんだ・・・」

 口許を引き攣らせて渇いた笑いを漏らす。

 はっきりいって馬鹿だ。

「おい、坂遠!! そろそろ行くぞっ」

 遠くで見ていたらしい生田がハジメに声をかけた。

 副会長の生田もやはり実行委員のようだ。

「あ、はい。先輩、ごめんなさい。もう時間なので・・・」

 言い様、ハジメは踵を返して生田のもとへと小走りに駆けていく。

「で、でも少しくらい・・・っ」

 いくら実行委員でも休憩くらいあるだろう。

 しかし、ハジメが振り向こうとしたその時・・・。

「おい、坂遠っ!!」

 生田の声に飛び跳ねたハジメは、慌てて走り出す。

「ご、ごめんなさい、急いでるので・・・っ」

 呆然としてハジメの後姿を見送る智早は、挙げかけた右腕を力なく落とす。

 肩を並べて歩いているハジメと生田。

 そこに自分の姿はない。

 ・・・そんなのを許していいのか?

「いや、よくないだろう!!」

 我に返った智早は、ハジメを奪還すべく2人のあとを追うのだが、たったの数分だというのにもう姿がない。

 あきらめるものか・・・!!

「ふふふ・・・俺は絶対にハジメちゃんと校内をまわってやる!!」

 薄笑いを浮かべつつ走り去っていく智早の姿に、周りの人々がどんな感情を受けたかなど・・・言うまでも、なかった。







 しかし、実際そう上手くいくものでもなく、ハジメはことごとく智早のもとから去っていく。

 舞台裏でハジメを発見した智早がハジメに声を掛けると、ハジメも嬉しそうに笑うのだが・・・。

「坂遠!!ちょっと暗幕おりないんだけど!!」

 遠くから大きな声を出しながら走ってくるのは、ハジメのクラスメイト・神田である。

 智早の存在を見ると、あ、どーも、と挨拶はするものの、話を中断するわけでもなくハジメと会話をはじめてしまった。

 真剣に聞いているハジメの邪魔をするわけにもいかず、黙って待っていた智早だったのだが、やがて神田のあとについて行ってしまった。

「先輩、ごめんなさい!!またあとで・・・っ」

 智早は引き止めようとするのだが、気にも止めずにハジメは姿を消した。

 ・・・神田のやろう・・っ!!

 いく当ての無い怒りを神田にぶつけて智早は気を落ち着かせる。

 でも大丈夫。まだまだ時間はあるのだから。







 昼。ハジメを追いかけて数時間。

 結局、2人で校内をまわるどころか一緒にいることさえ出来なかった。

 ハジメを見つけて駆け寄っていくのだが、すぐに神田のような邪魔が入ってゆっくり話もできやしない。

「あ、先輩。お待たせしました」

 弁当を持って現れたハジメは、はにかんだような笑みを浮かべて智早の横に座り込んだ。

 場所はもちろん屋上に上がるドアの前だ。

 校内をまわることは出来なかったものの、昼食は一緒に食べられることになったのだった。

 しかし、今日は文化祭。せっかくだから校内も一緒にまわりたい。

「あの・・・さ・・・午後も忙しい・・・?」

 上目遣いにハジメを窺う智早に、ハジメは箸の動きを止める。

 チラリと見たハジメの仕草に、智早は何やら嫌な予感を感じていた。

「・・・もしかして、また生徒会?」

 明らかにムスっとした顔の智早。自分でもガキくさいと思わないでもないが、ここで黙っていられるほど大人ではないのだ。

「いえ・・・その・・」

 言い難そうにしているハジメに、段々と苛々として目が吊り上ってくる。

「・・・もしかして、実行委員?」

 心なしか声が低いのも仕方がないだろう。何せ昼こそは・・・と思っていたのだから。

「あの・・・違うんです」

 まどろっこしいハジメの言葉に、ついに智早は身を乗り出してハジメの顔を覗き込む。

「じゃあ、何?」

 目が合うと目を泳がせるハジメ。

 ・・・怪しい。

「もしかして、私用?」

 再び目が合ってぎこちなく逸らされる。

 ・・・めちゃくちゃ怪しい。

「・・・実は・・・午後からバスケ部の招待試合が・・・」

 バスケ部。その言葉を聞いた瞬間浮かぶモノと言えば・・・。

「・・・透司のこと、まだソンケーしてんの?」

 いつものように呆れた声を出した智早。しかし、内心ではフツフツと怒りの炎がこみ上げている。

 更に、そこで頬を染めているハジメを見て尚更燃え盛るというものだ。

 ・・・透司のやろう・・っ!!

「・・・じゃあ、俺もいく」

 目線を下に落としたままで智早が呟くようにして言った。

 これ以上ハジメを生田に近づけてはいけない。絶対に阻止せねば。

 キョトンとしていたハジメだったが、やがてニッコリと笑うと再び弁当箱に視線を戻した。







 招待試合とは、特別に他校の運動部を招待してギャラリーの見守る中試合をすることだ。

 歓声が飛び交う中、智早はひとり沈んでいた。

 隣りにいるハジメの顔を見ると、やっぱり来るんじゃなかったと思ってしまう。

 何せ、頬を染めるという問題ではない。うっとりとした目で生田の姿を追っているのだ。

「・・・そんなに透司はカッコいい?」

「はい・・・凄く・・」

 前と同じ事を聞いてみる。多少言葉がきつくなってしまっても仕方がないだろう。

 ハジメは今、ここに智早がいることに気付いているのだろうか・・・。

 以前はすぐに我に返ったハジメだったのに、今は飽きずに生田の姿を見詰めているのだ。

 ・・・やってらんない。

 まさにその一言だろう。

 そして、試合が終わったあと、残り少ない時間しかないがそれでもハジメとまわりたい一心でハジメに声を掛けたのだが・・・あっさりと断られてしまった。

「あ・・・の、ごめんなさい。今度は生徒会の仕事が・・・」

 その言葉を聞いた瞬間、智早の中で何かが切れた。

「え・・、あの・・・っ。せんぱ・・・っ」

 戸惑っているハジメを強引に引っ張っていく智早。向かう先は決まっていないがとりあえず人気の無いところだ。

「あれー? お前ら何やってるんだ?」

 不意に掛けられた声は生田だった。早足で歩いている智早とハジメに対して、生田はのんびりとした声で話し掛ける。

「あ、そうだ。遠坂、これから生徒会室でミーティングやるらしいけど聞いてるか?」

 その言葉は今の智早には禁句だ。

 だんだんと目許が引き攣ってきていたが、ハジメは全く気がついていない。

「あ、はい。知ってま・・・っ」

 慌てて返事を返すハジメだったが、ソレを智早が途中で遮る。

「それ、ハジメちゃんは行かないから!!」

 いいざまその場をあとにする。

 突然の智早の言葉にハジメは驚いていたようだったが、智早は構わずにそのまま腕をひっぱっていく。

 ようやく人気のないところへ行きつくと、智早はおもむろにハジメを振り返った。

「・・・今日、俺ハジメちゃんとまわれるの楽しみにしてたんだぜ?」

 恨みがましく言ってしまったが、今の智早に気遣うことなど出来なかった。

「あ、あの・・・でも仕事が・・・」

 ハジメは視線を伏せて小さな声で呟くようにして言った。

 ソレを無理矢理上に向かせた智早は、睨むともおぼしき表情でハジメを見詰めている。

 いや、そうではない。眉を顰めていないと、情けないが泣きそうなのだ。

「・・・それで・・俺のことはどうでもいいって・・・?」

 ハジメの頬に触れる指の力が無意識のうちに強くなる。

 ここで頷かれたら立ち直れない。しかし、それでも智早はハジメのことを許してしまうのだろう。

 しかし、予想していた反応とは裏腹に、ハジメは目を揺らすと次の瞬間には智早の左頬を思い切り引っぱたいていた。

「・・・ハジメ・・・ちゃん・・?」

 ハジメの目に浮かぶ涙に痛む頬のことも忘れてしまった。

 きつく食いしばった口唇が痛々しくて、智早は慌てたようにハジメの口唇を指でなぞる。

「・・・僕だって・・・僕だって先輩と一緒にいたかったです・・」

 智早の指をハジメらしくなく乱暴に払うと、ハジメは懸命に智早を睨み見る。

「でも・・・仕方ないじゃないですか!! 生徒会役員が実行委員に加わるのは毎年のことだし、僕もそれを承知で生徒会に入ったんです。それを・・・麻生先輩と一緒にいたいが為に拒否・・・するなんて・・」

 ハジメは俯いてしまい、最期の方は上手く聞こえなかった。

 しかし、ハジメも同じ事を考えてくれていたのだ。

「・・・ごめん・・」

 謝ってみるものの、しっくりこない。

 ピクリとも動かないハジメに、智早は罪悪感と情けなさに口唇を噛む。

 しかし、決心をつけたように拳を握ると突然ハジメを抱き締めた。

「え、な・・・っ」

 あまりにいきなりの抱擁に、ハジメは驚愕に目を見開いている。

「ね、ハジメちゃん。俺は・・・ハジメちゃんが好きだ。だから・・・」

 そっとハジメの顔を覗き込むと、ハジメはジッと智早を見詰めていた。

 腕の中にすっぽりと入ってしまうハジメに、智早は照れ笑いを浮かべて囁くようにして言った。

「だから・・・許してくれる・・?」

 甘えているという自覚はある。それでも、智早がハジメに言えることはこれしかない。

 そんな智早の気持ちをわかっているのか、ハジメは小さな声で笑う。

「・・・僕も・・ごめんなさい・・・」

 笑ってくれたのが嬉しくて、智早はハジメの頬に口唇を落としてくすぐったそうにするハジメに、智早は囁いた。

「好き・・・って言ってくれたら許してやるよ」

 その瞬間、ハジメは嬉しそうに微笑む。

 しかし、その言葉を聞くことはなかった。

 それはハジメが口を開こうとしたその時、智早が口唇を塞いでしまったから。

End.  

 

 

nana様、そしていつも遊びに来てくださる皆様。

10000HITありがとうございました★

今回nanaさんにリクして頂いたのは『モテモテのハジメにヤキモチを焼く智早』・・・なのですが・・・(汗)

テーマがちょっと(?)ずれてしまいました・・・(涙)

nanaさん、ごめんなさい〜(叫)

もう〜智早アホ過ぎです!!

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