侵蝕的恋心+好きになった理由
■わけありダブルデート■
その日の生徒会室は静か過ぎるほど静かだった。
「・・・坂遠」 ハジメの傍らに椅子ごと移動した松野は、内緒話をするように小声で話し掛ける。 「・・・空気悪いな」 遠慮がちに視線を上げた松野は、その先にいる生田と智早を何気なさを装って盗み見る。 「はい・・・。何かあったのでしょうか」 ハジメも横目で智早を窺っていた。 「・・・喧嘩したみたいだよ」 松野は密かに溜息をついた。 今朝、生田にいつもどおり声をかけた瞬間顔が強張った。何故なら生田の様子がおかしかったのだ。 「・・・珍しいですね」 ハジメが驚いたように目を見開いていた。 本当に珍しいのだ。2人が喧嘩したなんてはじめてかもしれない・・・というほど見たことが無い。 そりゃあちょっとした言い合いなどはあるかもしれないが、空気が凍るほどの喧嘩は初めて見る。 「・・・ホントにな」 もう一度溜息をついた松野は再び生田に視線を向けた。 昨日、智早が来るからと生田のマンションを追い出された松野はすくなからず憤っていた。もちろん智早にである。 しかしいつもと違ってピリピリとした生田を見るのであれば仲良くしてもらいたいと思ってしまう。 松野は内心複雑に思いながら、なんとかならないのか、と考えていた。 「坂遠。ちょっと来てくれないか」 生田に呼ばれたハジメは急ぎ足で生田の机まで歩み寄っていった。 何気なく視線で追っていた松野は、それを智早も見ていたことに気付いた。 先ほどから生田を見ようとしない智早だったが、ハジメを見る為なら生田を視界にいれても問題ないらしい。 しかし生田が振り向こうとした瞬間、智早は急に顔を背ける。 ・・・ありゃ駄目だ・・。 松野はガックリと肩を落として戻ってきたハジメと同じに苦笑した。 席についたハジメは智早と会話を交わしながら生田に渡された書類に目を通す。 そして何かを探しているのかゴソゴソと鞄の中をかき回していた。 「あれ・・・? 忘れたのかなぁ、電卓・・・」 書記会計であるハジメは毎日MY電卓を持ってきていた。しかしどうやらソレが見当たらないらしい。 しばらく探していたハジメだったが、次の瞬間予想だにしなかったことが起きた。 「坂遠。俺の・・・」 「ハジメちゃん、俺が・・・」 同時に口を開けたらしい生田と智早が、それに気付いて視線を交わす。 困っているハジメに自分の電卓を貸そうとした生田と、何故かハジメの電卓を下敷きにして突っ伏していた智早。 一瞬睨みあった2人だが、即座にプイッとソッポを向く。 子供な2人の様子に呆れた顔の松野とハジメはあることを計画するのであった。
同時に言葉を発した生田と智早。明らかに不機嫌そうなそれを隣りで見ていた松野とハジメはギクッとばかりに口許をひきつらせる。 喧嘩した2人を仲直りさせようと、松野とハジメは2人をお約束のデートスポット『遊園地』へと誘ったのである。 しかし生田と智早にしてみれば、恋人と2人きりだと思っておりまさか喧嘩中の相手に会うとは思わなかったのである。 「・・・どういうことだ?」 生田に睨みつけられた松野は焦ったままに意味不明の言葉を漏らし、しどろもどろに裏返った声で話す。 「いや、その・・・よ、四人の方が楽しいかなぁーって・・・」 笑って誤魔化そうとする松野に生田の視線は厳しく刺さる。だんだん無理矢理作った笑みにも限界に来たし、松野は完全に固まってしまった。 一方、ハジメと2人きりだと喜んでいた智早も、生田と同じにハジメに恨めしそうな視線を送っていた。 「・・・だって、先輩たちが喧嘩してるって聞いて・・・」 目を潤ませて見あげてくるハジメに智早は焦ってしまい慌ててハジメの躯を抱き寄せる。 「け、喧嘩なんかしてねェって!!」 笑ってハジメの髪の毛を撫でる智早に、ハジメはなおも上目遣いで智早を見詰めて・・・。 「・・・じゃあ4人でもいいですよね・・?」 「もちろんオッケーだって!!」 ニコニコしながら見詰め合う2人を側で見ていた松野はホッと安堵の息を漏らし、生田は諦めに似た溜息を吐いたのであった。
「・・・坂遠。絶対このままじゃ駄目だ。今日が無駄に終わるぞ」 喧嘩している2人の隙(なんてあるのか?/笑)に、松野とハジメは内緒話で話し合っていた。 「そうですね。このままだと仲直りは絶対に無理そうです」 4人でいても肝心の2人は一向に話す気配がない。 「よし。ここは・・・アレだ」 松野が指をさしたものは遊園地に行けばかならずあるという・・・。 早速『仲直り作戦』を考えた2人は上手く生田と智早をソレの前に誘導させる。 そして予定通りに『観覧車』の前にきた2人は・・・。 「ぼく、松野さんと乗りますから麻生先輩は生田先輩と乗ってくださいね」 「えっ!!ハジメちゃん!?」 ソレを聞いた生田は松野向かって低い声を出した。 「おい松野・・・」 「いや、その・・・坂遠と話が・・・っ」 眉をしかめて松野を見詰める・・・いや、睨んでいる生田に松野は我慢が出来なくなり・・・。 「うー・・・ほら、お前ら喧嘩してるだろ? この機に仲直りしちゃえば?」 ヘラっと笑った松野に生田が返した言葉は・・・。 「あぁ?」 極上に機嫌の悪そうな顔で睨みつけられ、松野はビクリと躯を跳ね上がらせると「じゃーな!!」と叫びハジメを引っ張って観覧車の中へと逃げ込んでしまった。 残された2人は仕方がない・・・と溜息を吐いたのだった。 「はぁ・・・大丈夫かな、あいつ等」 「・・・どうでしょう」 あの時、生田と智早を2人にすればきっと喧嘩もおさまるだろうと考えた松野だったが、反対に観覧車の中で大きな喧嘩に発展したらどうしよう・・・と思い始めていた。 「・・・殴り合いとかになってないだろうなぁ」 だんだん心配になってきた松野は落ち着きなく指を動かしていた。 「観覧車降りたら血塗れ・・・なんてことになってたら笑えないぞ」 はは・・・と苦笑いを浮かべる松野は、先ほどから無言のハジメに気付く。 「坂遠? どうかしたのか?」 ハジメは風景を眺めながらボーっとしていた。 「え、あ、その・・・。何が原因で喧嘩をしたのかなって・・・」 松野の声に気付いたように振り返ったハジメの言葉に松野もそういえばと考える。 「・・・何だろうな」 ムカつくくらい仲の良かった2人がいきなり口もきかないほどの喧嘩だ。きっと何か大きな原因があるに違いない。 考えても解からず、そうこうしているうちに地上についてしまった。 ハジメと2人で待っている間、松野は気が気じゃない思いでジリジリとしていた。 「・・・喧嘩中にあんな密室ですることってヒトツしかないよな・・・」 しかし、ハラハラしていた松野の思いとは裏腹に、戻ってきた生田と智早の顔は笑っていた。 「だろー!? だから、そこはそうしてこうやってだなぁ」 智早のやけにハイになった声が響く。ニヤけているのが遠く離れていても解かるほどだ。 思わず唖然として2人を見詰めていると、ソレに気づいた智早が突然走り寄ってきた。 「おい松野!!ハジメちゃんにくっついてんじゃねェよ!!」 ハジメと松野の肩がかろうじて触れていない・・・という状態に気づいた智早が引き離そうとするのを見て、松野は瞬きをしたが次には悪どい笑みを浮かべてハジメの肩を引き寄せた。 「うるさいな。俺が誰とくっついてようと俺の勝手デショ」 「お、おま・・・っ!!」 額に青筋を浮かべて憤っている智早に松野はほくそ笑む。散々心配させたのだからこれくらいは許されるだろう。 「松野」 呼ぶ声に振り返ると、そこには苦笑している生田が。 「そこらへんにしておけって」 笑っている生田に松野も思わず笑ってしまう。智早と喧嘩中の生田は何だかピリピリして駄目だ。 「・・・仕方ないな。透司に免じて許してやるよ」 それを聞いた智早が目許を引き攣らせて怒ったのはいうまでもなかった。
生田の声に3人は頷くと近くにあった売店に向かった。 「ハジメちゃん何食べるー?」 智早は奢る気満々でハジメに笑いかける。ハジメとしては人に奢られるのには心がひけるから・・・といつも遠慮するのだが、智早はそんなのをお構いなしだった。 智早とハジメの攻防を見遣ってから、松野はメニューを見あげて何を食べようかと考える。 「んー・・・たこ焼き食べようかなぁ」 かなーとかいいながら松野の中では既にたこ焼きで決定していた。 しかし松野は気付いていない。その時その言葉に反応した2人がいることを。 「ソースとしょう油があるのか・・・。どっちにしようかな・・・」 遊園地などの売店ではたいていどっちかの味しかないのに・・・と、松野は真剣に悩んでいた。 その時、肩に触れてきた温もりに松野はビクッとして顔を上げた。 「迷ってるのか?・・・ソースにしたらいいんじゃないか?」 どうやら生田に肩を抱き寄せられたらしい。しかも微笑みながら松野を見詰めてくる。こんなことは初めてだった。 松野は顔とは言わず躯中を真っ赤に染めて頷こうとした瞬間、反対側から凄い力でひっぱられる。 何事!?と振り返った松野は目の前にいた人物に瞬きを繰り返した。 「麻生?・・・何なわけ?」 せっかくいい所だったのに・・・と松野は眉間に皺をよせて智早を思い切り非難する。それもそのはずだった。あんなに優しげな生田はめったに見られない。 「松野、ヒトツ言っておく。透司をあんまり信用しすぎるなよ」 「はぁ!?」 ・・・解からない。コイツが解からない。 松野は意味の解からないことを言う智早をエイリアンでも見るように目許を引き攣らせた。 あまりの驚きに松野は腕を掴れたままだったことを忘れていた。 不意に今度は生田に腕を掴れ・・・。 「おい。松野に変なことを吹き込むな」 ・・・何がどうなってるんだ? 松野は突然起こった事態に頭が混乱していた。 確かに先ほどまで喧嘩をしていた2人だったが観覧車の中で仲直りをしたんじゃなかったのか? 助けを求めるようにハジメに視線を送ったが、ハジメもオロオロとしていて頼りにはならなかった。 「吹き込んだのはお前じゃないか。透司」 そして松野に視線を戻した智早が言った言葉は・・・。 「松野、悪いことは言わない。しょう油にしておけ」 ・・・・・・は? 「馬鹿をいうのは止めろ。たこ焼きはソースって昔から決まってるんだよ」 ・・・・・・透司? 松野を挟んで言い合っている2人。明らかに内容がおかしい。 「え、ちょ、ちょっと待てよ・・・っ」 しかし松野の制止の声などムキになっている2人には全く聞こえていなかった。 「馬鹿はどっちだよ。たこ焼きはしょう油に決まってるだろ!!」 「ふざけるな。しょう油なんか誰が食うか!!」 止まらない2人の言い合いに松野が閉口していると、先ほどまでオロオロしていたハジメが制止に入る。 「ちょっと待ってくださいっ」 ハジメに気づいた2人はムスッとして口を一旦閉ざす。しかし・・・。 「・・・マヨラーのくせに」 ボソッと言った智早の言葉に再び言い合いは再開した。 「マヨネーズの何処が悪いんだよ!!」 「信じらんねェな!!たこ焼きにマヨネーズなんかかけてんじゃねェよ!!」 更に言い合う2人に松野とハジメは思わず顔を見合わせた。 その口ぶりから今まで散々言い合ったことが解かる。 「もう〜聞いてよハジメちゃん!!コイツたこ焼きにマヨネーズかけるんだぜ!?」 突然振られたハジメは咄嗟に何も言うことができなかった。 しかしそんなハジメに構うことなく智早は続ける。 「昨日なんか俺が食ってたたこ焼きにいきなりマヨネーズかけてきたんだぜ!?しょう油味だったのにィ〜!!」 ハジメに抱きついて泣き付く智早にハジメも松野も呆然としていた。 「え、せ、先輩・・・あの・・・」 もしかして、喧嘩していた原因はソレだったのだろうか・・・? あまりにくだらな過ぎてハジメも松野も何も言えなかった。 戸惑ったハジメは智早に向けていた視線を生田に向けると、生田は苛々とした様子を露わにして怒っていた。 「あのなぁ。マヨネーズをかけられたくなかったら俺の家でたこ焼き食うな」 偉そうに腕を組んでいる生田に、智早は顔を上げると吊り上げた目で思い切り生田を睨みつけていた。 そんな2人を見ていた松野は、「それで喧嘩していたのか?」とはきけなかった。きける雰囲気ではなかったのだ。 「もしかして・・・そんなことで喧嘩していたんですか?」 言葉にしたのはハジメだった。 つ、強い・・・。 「そんなことって・・・。坂遠、これは大切な問題なんだぞ」 「そ、そうだよハジメちゃん!!」 抗議をあげる2人ハジメは冷たい視線を向ける。 「そんなの個人の味覚の問題です。そんな馬鹿げたことで言い合わないで下さい」 溜息を吐きそうな勢いのハジメに、2人は曖昧な顔をする。 ハジメの言うことが正論なだけに何もいえないのだろう。 「坂遠の言うとおりだよ!!心配して損したよ・・・」 殴り合いになるかと思ったと続けた松野に、2人して眉を寄せて松野を見遣る。 「・・・誰が心配しろって言ったんだよ」 「馬鹿か。俺たちが殴り合うわけないだろう」 おいおい・・・坂遠と態度が違うぞ・・・。 生田はともかく智早の言葉にピキーンと来た松野が口をあけたその時、生田に止められ仕方がなく口を閉ざす。 「・・・悪かったな、智早」 苦笑しながら言う生田に智早も照れ笑いを浮かべた。 「いや・・・。いいよ。お前がマヨラーだってこと知ってたし」 生田と智早が笑いあっているのを傍で見ていた松野とハジメは、やけに疲れた思いを感じながら喧嘩が終わったのに安堵していた。
「はぁ!?何で大根おろしにナメコなんか入れるんだよ!!」 「おかしいのはお前だ!!普通は煮干しなんかいれないんだよ!!」 生徒会室に響く2人の声に、松野とハジメは溜息を吐いた。 そして思う。・・・もう放っておこう、と。 End. |
ちなみに管理人はソース派です。しかもマヨラーなのは管理人でした(爆)
ひなこさん、13000HIT踏んでくれてありがとでしたっ
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