#7−1 柊-side

 どこからか梟の鳴き声がしていた。

「有蓋達は右、他のヤツは左から行ってくれ。」

「あいよっ」

「継嗣と俺は正面からだ。・・・いいか、合図出すまでは大人しくしてやがれよ」

 言いながら、柊は有蓋の背中を思い切り叩いた。

「痛ッ!わかってらぁ」

 恨みがましい目を向けながら有蓋が走っていった。

 他のヤツ等も口々に言いながら、それぞれの持ち場へと走っていく。

 ・・・さて。

 あとは『その時』を待つだけだった。

 門の見張りは現在二人。視察によると、もうすぐ交代の時間のはずだ。

 木の陰に身を潜め、正門の様子をジッと息を潜めて窺っていた。

「・・・聡里が心配か?」

 突然の継嗣の問いに内心ドキリとするも、無意識に唾を飲み込み平静を装った。

「・・・そりゃあな。仲間だからな」

 平坦な声色を出したつもりだったのだが・・・。

 継嗣の小さく鼻で笑ったような相槌に、これは気づかれてるな・・・と内心で苦笑した。

「・・・言っておくが、お前らの中に割って入るような真似はしねぇよ」

 あんなことがあった後だ。いい訳じみて聞こえたかもしれない。

 無言の継嗣をチラリと目の端に捉えたが、その無表情さに何を考えているのか全く読み取れなかった。

 ・・・何を心配することがあるってんだ。

 柊の目から見て、二人はとても仲睦まじげで入る隙間さえないというのに。

 もっとも入る気などさらさら無いのだが。

 柊は小さく息を吐き、わずかに顎をそらした。

 その時だった。ふと屋敷の様子がおかしいことに気がついた。

「・・・なんだ?やけに騒がしいな・・」

 ほんの数秒目を離していた間のことだった。

「ああ・・・。ん・・見張りが走って行ったな」

 継嗣が身を乗り出しながら言った。

 正門の両脇に立っていた警備兵が慌しく中へと入っていったのだ。

「・・・どうなってんだ?」

 首を傾げるも、しかしこのチャンスを見逃す手はない。

 柊は小さなガラス玉を空へと翳した。

 何度か角度を変えてやると、月の明かりで反射して小さくだが光る。

 2,3度光るのを確認した柊は、すばやく石を懐へと仕舞った後、地面についていた膝を上げた。

「・・・いくぞ」

 顎で正門を示した柊に、継嗣も無言で頷いた。

 潜みこんでいた木陰から、上手く草むらを利用し足早に移動する。

 本来なら一悶着あるはずだった正門は、人一人いない為にあっさり通過した。

「気ぃつけろよ継嗣。中で何がおきてんのかさっぱりだ」

「言われなくてもわかってるさ」

 ばかデカい庭へと脚を踏み入れた二人は、ようやく発見した人影に俊敏に己の身を隠した。

 噴水の周りに生えた木々を隠れ蓑に、じわじわとその騒ぎの中心へと近づいていく。

「・・・おい、見ろよ。・・・兵士?」

 継嗣が顎で指した先には、十数人の兵士らしき後姿が見えた。

「・・・ありゃ帝国軍だな」

 鎧の色に決定的な違いがあった。

 先ほど見かけた見張り兵の鎧は茶色。それに対して、帝国軍は白い鎧に兜の天辺に赤い羽根のようなものを垂らしている。

「なんで帝国が・・・」

 ここは東の統領宅である。いくら帝国軍でもおいそれと兵士が入れる場所ではない。

 しばらく様子を見ていた二人は、突然ワッとざわついた兵士達に眉を顰めた。

 なんだ・・・?と思う間もなく、兵士達の目の前にある建物に視線を向けた時、信じられない物を見た。

「な・・・ッ!?」

 なんと建物の窓際から、目的である聡里が身を乗り出しているではないか。

 高い塔の窓枠に脚を掛け、今にも落ちそうな格好だった。

 これには柊も目を見開く。よろよろと覚束ない脚で、見ているこちらがハラハラしていた。

 中にいる誰かと言い争っているのか、視線はずっと建物の中に向いている。

 そのとき、聡里の足元がガクリと揺れた。

「聡里・・・ッ」

 思わず・・・と言う具合に小さく叫んだ継嗣の口を慌てて塞ぐ。

 しかし既に遅く、兵士達に気づかれてしまったようだ。

 もしや・・・これはヤバイかもしれない。そう思った柊は、どうするべきか・・・と瞬時に考えた。

 ここは逃げた方がいい・・・頭の中で誰かが言っている。けれど。

 聡里を目の前にして逃げてしまうのか?

 その時だった。

 兵士達のざわめき。あちらこちらからの叫び声。

「聡里----ッ!」

 それは誰の声だっただろう。

 柊だろうか。継嗣だろうか。それとも。

 考えている暇はなかった。しかし柊が迷っている間に、フラフラとしていた聡里がついに足元を滑らせてしまったのだ。

 落下するその瞬間、柊は間に合うはずがないのに走り出した。

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