だから青春というものは。

 

#1

 俺は青春というものに凄まじく憧れていた。

 なぜなら、俺の中学校生活は散々なものだったのだ。

 色素の薄いサラサラな髪の毛。チビで痩せでこれでもかというほどの女顔。

 中学時代はそりゃーもぅ凄まじい学校生活を歩んできたさ。

 右から行き過ぎたスキンシップを求める。(許すのは腕組までだ・・・)

 左から薔薇の花束を渡してくる。(そんな中学生嫌だ・・・)

 前からキスを迫ってくる。(頼むから口唇を尖らせて近寄るな・・・)

 後ろからオノレのナニを押し付けてくる。(へ、変態だあああああ!!)

 いったい何時から中学校は共学ではなくなってしまったんだ・・・?

 あの3年間。女子とのふれあいはあっただろうか。いや無い。

 所かまわず押し倒してくる猛者たちをちぎっては投げちぎっては投げ。

 おかげで喧嘩が強くなって嬉しいの何のって。わはは。

 ぬわーんて俺が喜ぶとでも思ったか畜生め!!

 俺の思春期を返せ!!甘酸っぱい思い出はどこだ!?

 だから俺は誓ったんだ。

 今までの灰色の中学校生活よサラバ!!

 俺はこれから過ごす薔薇色の高校生活に生きる!!

 サヨウナラ!腐った思春期!!

 コンニチハ!輝かしい青春時代!!

 俺は入学式に期待していた。ああ、とても期待していたさ!!

 出席番号順に並んで体育館に歩いていく。となりにはたまたま出席番号が同じになった見知らぬ女子。

 高校生と行っても中学生に毛の生えたようなものだ。

 当然体育館まで行く道中もふざけあうものなんだよ!!

『きゃ・・っ』

『あぶない・・・っ』

『あ・・・っ。ごめんなさい・・・っ』

 身を挺して彼女を支える俺。はにかんでお礼を言う彼女。

 青春だ!!

 ・・・そんなことあるわけないって?

 ・・・そうかもな。

 ならこれならどうだ?

 入学式なんて退屈すぎるだろ? 途中で寝こけるヤツって絶対いるんだよな〜。

 校長先生の声が子守唄代わりになってさー、あれってすっげぇいい具合に熟睡できるんだよ。

 頭で船まで漕ぎ出して、隣に座るこれまた偶然出席番号が同じになった見知らぬ女子の肩に頭が触れたり・・・。

『あ・・・っ。ご、ごめん・・・っ」

『う、ううん』

 はっとして涎を拭く俺。恥ずかしそうに俯きながらも笑う彼女。

 これぞ青春だ!!

 ・・・そんなことあるわけないって?

 ・・・そうかもな。

 確かに俺は期待していたさ。夢を見ちゃったりしたさ。

 だからってさ、これは無いだろう?

 見渡す限り男男男・・・。なんだ?これは。

 今日は男サービスデーか? いらねーよそんな日。

 もちろん俺は聞いた。

 隣に座っている、本当なら女子だったはずのヤツに。

「女子はどこだ?」

「え。こ、ここ男子校・・・」

 何故だか苦しそうにいうソイツのことはどうでもいい。

 その理由が、ヤツの胸倉を掴んでいる俺の腕の所為だとしてもどうでもいいんだ!!

 言うに事欠いて何だ?

 もいっぺん言ってみろ?

 俺の空耳か? ははは。最後に耳掃除したのは何時だっけな。

 俺は出来る限り笑顔でもう一度尋ねてやった。

 そりゃーもう優しいお声で聞いてやったよ。

 ・・・・・・。

 同じ答えを聞いたその瞬間、俺は悟っちまった・・・。

 サヨウナラ。少なからず女子のいた思春期。

 コンニチハ。男だらけの青春時代・・・。

 俺の華やかな青春時代はどこにいったんだ・・・。

 悲観している間にも時間は流れるし、入学式は進む。

 ああ。式なんぞ耳にはいってないね。

 校長の話? 来賓祝辞?

 なんだそれは。聞けば俺の青春時代は戻ってくるのか?

 あのときの俺は相当イジケテいたな。もうスネオもびっくりだ。

 傍から見たらそりゃーしおらしい美少年に見えたことだろうよ。

 実際しおれてたしな。何時の間に教室に移動したかも謎だったよ。

 けど俺はプラス思考の人間だ。

 男子校? 大いに結構じゃないか!!

 青春時代・・・。それは二度とこない大切な友人との友情を育む時間(とき)のことだ!!

 ああ。俺は頑張った。頑張ったさ。

 いまだかつて無いくらい笑顔も振りまいてやったさ。

 なんてったって青春時代だからな。

 ここで訳のわからん友達をつくっちゃー俺の青春時代は終わる。うんうん。

 その甲斐あっていい友達もできたし、まあいいだろう。

 それはそれでいい。いいんだが・・・。

 いつから男子校はホモの巣窟になったんだ・・・?

 右から俺のナニを掴もうとする。(ばっちぃからやめろっ)

 左から俺の衣服を剥ごうとする。(千切れたボタンどうしてくれんだっ)

 前から草むらに連れ込もうとする。(傍にあった石を投げつけたのは正当防衛だっ)

 後ろからクロロホルムを口元に当てようとする。(お、おま、お前それは犯罪だろおおおっ)

 この学校にはまともな人間はいないのか!?皆無なのか!?

 保健室につれてかれたこともあれば、体育館倉庫に連れ込まれたことも数え切れない。

 うっかり誰もいない夕方の校舎なんぞ歩いてみろ?

 使われていない教室に連れ込まれ放題だぞ!?

 妙に説得力がある? 当たり前だ。

 実際何度かやられたからな!!

 アホな告白をされるたびにちぎっては投げちぎっては投げ・・・。

 気が付けば中学時代の二の舞かよ。

「夜須(ヤス)先輩が裏庭で待ってるってさ」

 うんざりしたような友人の顔。

 なんだその顔はっ。うんざりは俺のセリフだ畜生っ。

 俺の友達であるが為に伝言を頼まれまくる友人を哀れに思う暇なんて無いんだよっ。俺にはなっ。

 そんな伝言にいちいち構っている俺じゃーない。

 一方的な伝言には、行ったり行かなかったり窓から黒板消しを投げつけてみたり・・・。

 今日の俺は虫の居所が悪すぎた。

 俺を恨むなよ。告白なんぞしてくるテメェが悪い。

 握りこぶしを作りつつ、殴りこむ勢いで裏庭に一目散に向かっていった。

 それは春のことでした。

 桜の花びらが舞い散る中、息を切らせて立ち止まった俺を振り返る。




―――やられた。


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