だから青春というものは。

 

#2

 ありえない・・・。

 自分の教室まで送ってもらった俺は、3年生の教室へと向かっていく夜須 光星(やす こうせい)先輩を呆然として見送っていた。

「ありえねーよ・・」

 俺は何しに裏庭に行った?

「お。翔(しょう)おかえりー」

 ニヤニヤと翔に近寄ってくるのは、青春時代を謳歌するために得た友人Aくん・・・もとい、蓮田 輝武(はすだ てるたけ)だ。

「あーあー。まーた握り拳なんかつくっちゃってー。今日は骨折させなかっただろうな?」

 いつの話をしてるんだね。チミは。

 あれはそう入学式が終わり友人もでき、学校にも慣れてきたころのことだった。

 突然好きだとか何だと叫びながら抱きついてきた見知らぬ男にビックリした俺は、当然のごとく拳を繰り出したわけさ。

 ・・・あの骨折は俺の所為じゃなかったと思うぞ・・?

 敢え無く壁に激突した男が運悪く骨折したというだけで、男の軟弱さまで俺の所為にされちゃーたまんねぇよ。

 だけど、今の俺にそんな反論なんかできなかった。

 そんなどうでもいいことなんか頭の中に置いておけないほど、俺は混乱していたんだ。

「・・・翔? どうした?」

 いつも反論+拳が飛んでくるのに・・・と、テルは怪訝な顔で俺の顔を覗き込んだ。

「うわっ!おま・・・っ。男くせぇキモい顔を俺様に近づけるんじゃねーよ!馬鹿がっ」

 すかさずボレーキック。

 テルの顔を『キモい』と形容するのは俺くらいなもんだろう。

 コイツの顔がモテることを俺は知っている。知っているが、男男している顔を見てもちっとも楽しくも無いんだっての。

「・・・お前な・・。それが心配した友達に対する態度かぁ?」

 蹴られた腰をさすりつつ、テルは恨み言を言った。

 俺はテルが怒っていないことを知ってるから、そんなものは素通りだった。

 だいたい俺の暴言と暴挙はいつものことだし、コイツの決まった恨み文句も毎度のことだ。・・・よく飽きねぇな。

「うるさい。今俺はそれどころじゃないんだ。俺の青春時代が奪われようとしている。そうだ、まさに人生の危機だ!!」

 ワナワナと震える腕で頭を抱える俺に、テルは哀れんだ視線を投げつけてきた。

 ・・・こいつ何考えやがった・・。

「・・・なんだよ」

「・・・わるい。翔。そんなことがあったなんて・・・」

「は?」

 ウルウルと潤ませた目許を拭う素振りを見せながら、テルが俺の肩に手をついた。

 慰めるようなその動きにますます俺は疑問を募らせる。

「なんだってんだ?」

「裏庭でのことだろ・・?」

「え。あ。うん。まあな・・・」

 そう。そうだよ。裏庭だ。

 何でわかったんだコイツ・・・。もしや超能力者・・・いやいやそんな馬鹿な。

「そりゃあ人生の危機だよな。お前の嫌がってたホモ・・・ああ・・・言葉に出しても大丈夫か?」

 そう。そうだよ。ホモだ。

 俺はホモが嫌いだ。ああ嫌いだとも。

 何せ青春時代を謳歌するための条件に、もっとも当てはまらないからな。

「・・・お前・・・。そこまでわかっちゃってるのか・・・」

「!! やっぱりか・・・」

「・・・俺のこと、軽蔑するだろ・・?」

 衝撃を受けたようなテルの顔に、俺は気まずくて顔をそらした。

 やっぱりコイツ超能力者に・・・っ!!

 流石エスパーだ。既に全てを知っているだなんて・・・。

 ・・・コイツいつからエスパーになったんだ? 内緒にしてやがってクソが。

「そんな・・・っ。一度くらいなんだよ!俺たち・・・友達だろ・・?」

 ちくしょう・・・。なんて友達思いのイイ奴なんだ。

 やっぱりお前は俺の青春時代に相応しい友達だ・・・っ!!

 超能力を内緒にしてたことくらい許してやるか・・・。

 ん・・? 一度くらい????

「おい、一度って何・・・」

「そんなの無かった事にしちゃえよ!ほら、あれだ。犬に噛まれたと思って・・・」

「いや、無理だ。もう俺の頭から離れねぇんだよ・・・」

 きっぱりと言った。隠しても仕方ないしな・・・。

「翔・・・。そんなに・・・忘れられない程だったのか・・?」

「ああ。あれは忘れられるはずがない」

「そんなに感じちゃったのか? 翔」

「ああ?」

 何か今、ものすごく違うことをいわれた気がする。

「あれは癖になるっていうしな。・・・はじめは痛いだけだっていうけど、まぁ素質があったのかもな・・・」

「お前何か違うこと考えてないか?」

「え。違ったのか? だって裏庭だろ?」

 眉を顰めてジーっと窺う俺に、テルの頭の上にハテナが浮かんでいた。

「んでもって、また告白されたんだろ?」

 俺は躊躇しながらも頷いた。

「ほらみろ。やっぱそうなんだろ?」

「なにが」

「人気のない裏庭。翔に気のある男に呼び出された。もう条件は揃ってるじゃん?」

「だから何が」

「強姦され―――ぶっ」

 ・・・俺の感動を返せ。

「いってぇっ!何すんだよ翔〜」

 頬をさすりながら恨みがましい目で俺を見るテルに、俺は冷ややかな視線を送った。

 自業自得だよな。

 何が超能力者だ。この大嘘つきめっ!!詐欺師もいいトコだこんチクショウっ 

「だれが強姦なんかされんだよ。そんなことがあった日には俺はここには立ってないね」

「おいおい、命は大切にしろよ?」

 ・・・誰が自殺するなんて言った。

 だいたい強姦される前に、その男のイチモツを使えなくなるまで痛めつけるっつーの。

 万が一。100歩譲ってだ。俺が強姦されたとしよう。

 俺はその脚で警察に飛び込むね。

 訴えるため? んな訳ない。

 強姦なんぞされた日にゃあ人ひとり殺してるだろうな。うんうん。

 俺が立ってるのは教室じゃなくて少年院の中だ。ははは。

「じゃあ何があったんだよ? その裏庭で」

「・・・ヤられたんだ」

「ほらみろ」

「そのヤられたじゃない」

 俺はもちろん殴るつもりで裏庭に行った。

 あの時の俺なら病院送りぐらいしたかもしれない。

 でも、見ちゃったんだよ。

 桜の花びらが舞い散る中、振り返るあの人を・・・―――。

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