#1

-プロローグ-

 憧れの先輩がいる。

 頭脳明晰で教師受けがよく、副会長に選ばれたりしてたくさんの人達に尊敬されている。それなのに、バスケット部のエースで容姿端麗ときている。全てにおいてオールマイティーな人。

 生田 透司。1学年、年上の先輩だ。

 入学と同時に噂を聞き、実物を見てかっこいいと思った。

 容姿だけでない。中身がかっこいいのだ。

 坂遠 ハジメは生田 透司に、果てしなく憧れていた。






  廊下を駆ける足音がする。

 紺の学生服に身を包んだ少年は、汗ばむ額に張り付いたサラサラな漆黒の前髪を鬱陶しげに振り払った。

 見上げると目的のプレートを発見した少年は、『3年1組』と記してあるプレートの扉を遠慮がちに開けた。

 扉を開けると付近にいた者が気付き、歩み寄ってきた。

「生田なら保健室だよ」

 少年も、生田 透司程ではないが結構有名なのだ。それに、少年が生田を呼びに来ることは常であったのだ。

 少年は一礼すると、身を翻し来た道を戻る。3年1組の教室と保健室は全くの逆方向だったのだ。

 左手首に嵌めた時計を気にしながら、少年は長い廊下を保健室を目指して走る。休み時間は、もうあと僅かだった。

 少年は肩で呼吸をしながら保健室の扉に手をかけた。

「あれ?坂遠じゃないか」

 毎日聞いているのに全く聞きなれない、生田の声が少年の耳に聞こえてきた。

 少年が口を開けたその時、ある一点に目を奪われ口を閉じることも忘れたままその場に立ち尽くしてしまった。

「ああ・・・。見られちまったなぁ・・・」

 生田の少年を見る目は笑っている。

 生田の指先には煙草が摘まれていた。信じられない光景だった。

 しばらく何も言えないでいると突然声が聞こえてきたその時、2人以外に誰かいることに気付く。

「だれ、ソイツ」

 生田の座っているベッドの半分がカーテンで隠すように閉ざされていたが、その向こうに人の気配を感じた。

「ああ、智早。起きたのか?」

 カーテンが揺れる。覗いた顔には見覚えがあった。

 麻生 智早(あそう ちはや)。学園きっての超問題児。

 生田とは仲が良いらしく、よく一緒につるんでいるという噂を何度も聞いたことがある。しかし、少年は”麻生 智早”を初めて見る。

「俺の後輩だよ。同じ生徒会の会計書記やってんだ」

 乱れた服装を正しながら、生田が説明する。

 何気なく生田を見た少年は、生田の首筋に朱い鬱血の痕を見付けてしまい、目を逸らす。

「あ、あの・・・っ。あ、明日の授業後に生徒会の集会がありますから・・・っ」

 捲り上げるように早口で喋りあげた。あまりに居辛く、早くここから去りたかったのだ。

「げ。またあるのかぁ?ち・・・っ。また部活途中で抜けなきゃな・・・」

 生田は眉を顰め、手にしていた煙草を口許へ運ぶ。尊敬していた先輩のその姿を瞳に映したくなくて目を背けると、智早と目が合ってしまった。どうやら智早は少年をずっと見ていたようだった。

 いたたまれず少年は視線を逸らし、それじゃあ・・・と、扉のノブに手をかけた。

「あ――っ。ちょっと待ったっ」

 呼び止める声に振り返ると絶句してしまう。

「あのさ、透司の後輩なんだって?名前は?」

 智早の言葉など全く聞いてはいなかった。目に映るものに思わず顔が朱くなるのを自分でも感じていた。頭の中は空っぽだった。

「なあ・・・。聞いてんの?」

 智早の声で我に返る。見開いていた瞳が元に戻ると、智早の顔をまともに見ることができなくなってしまった。

 理由は簡単だ。

 顔を見ると当然のように躯まで見えてしまうのだ。今の智早は躯に何も纏っていない。いわゆる全裸なのである。下着さえも穿いていない、一糸纏わぬ智早に何と答えてよいか解からなかった。

「だぁからぁ。な・ま・えっ」

 智早が苛ついた様子で声を張り上げて、少年の近くに歩み寄った。

 少年は助けて欲しいような心情で、思わず声を張り上げてしまう。

「さ・・・坂遠・・ハジメ・・ですっ」

 ハジメは言いながらも後退る。

 目を笑わせ口許を吊り上げた智早はハジメの頬へ手を伸ばした。

 ハジメは小さく悲鳴を洩らし身を引いたがもう後は無く、何も見えないように瞳を閉じた。

「ふーん・・・。ハジメちゃんかぁ」

 智早はハジメを嘗め回すようにようにして見ると、再び口許を吊り上げて微笑う。

 智早の手が頬から首筋へとゆっくり下りていくのに驚いたハジメは思わず瞳を開けてしまった。当然智早の丸裸の躯がハジメの瞳に入ってくる。ハジメは反射的に目を瞑ってしまう。しかし、智早の次の言葉でもう一度開けることになる。

「一緒に愉しもうぜ」

 ハジメの腕を掴んだ智早は強引にベッドの上へと連れ込んだ。

 あまりに驚いて身動き一つ取れていないはじめに気にも止めず、智早はハジメの学ランを素早く脱がせ始めた。それに気付いたハジメは急いで止めさせようともがくが非力なハジメが智早に敵うはずも無く・・・。

「だーいじょーぶ。気持ちよくしてやるよ」

 耳を嘗められる感触に慣れず、小さな悲鳴をあげたハジメは思わず智早の胸許のシャツを握り締めてしまった。

 震えているハジメを見て、智早は面白そうに小さく笑う。

「おい、智早。あんまし虐めすぎるなよ。俺の可愛い後輩なんだから」

 ベッドに座ったまま煙草を吸う生田を、智早は一瞥すると再びハジメに視線を戻す。

 躯を震わせているハジメは、きつく瞳を閉じていて長めの睫毛も一緒に震えていて・・・。

「・・・確かに可愛いな」

 噛み締めているハジメの口唇に自分の口唇を寄せた智早。触れるとハジメが弾けたように退いた所為で口唇は瞬く間に離れてしまった。

 一瞬じゃ満足できなかった智早は、再びハジメの口唇を追ったがハジメの頑なな拒絶に焦れ、がむしゃらに抵抗していたハジメの両腕を抑え込み強引に口唇を重ね合わせた。

 口唇の隙間からハジメの柔らかな舌先に智早は自分のそれを絡ませ、執拗に口腔内をまさぐった。

 時々ハジメの口からくぐもった声が聞こえてきて、智早の下半身を昂ぶらせていく。キスだけでは飽き足りてしまった智早は、早々とハジメの制服の下に手をかけた。

「おいおい。悪い癖は止めとけよ」

 ソレくらいにしておけよ、とベッドに腰掛けていた生田が言った。智早のしようとしていたことに気付き止めには入るが、智早はベルトを外してしまうと一気に下着ごと引き抜いてしまった。

 ハジメは声にならない悲鳴をあげ、智早の下から抜け出そうとしているがウエイト差なのか全く敵うことは無かった。

「や・・・めて、下さいっ」

 ハジメが真っ赤になって叫ぶように言っても、智早は微笑んだままだった。

「やぁ・・・っ。こんな・・・っ。だいたい・・・っ、先輩達はここで何を・・・っ」

「俺と透司?」

 智早は無駄な抵抗を繰り返しているハジメを面白そうに眺め、瞳を細めた。

「そんなに知りたきゃ、教えてやるよ」

 いい様、智早はハジメの首筋に口唇を落とす。その間にハジメの着ているシャツの釦を器用に外していく。

 生田はその様子を見ても、もう止めることはなかったが溜息を吐いた

 全開になったシャツの中の突起に触れられ、ハジメは全身に電流が流れるような感覚に陥る。

 「へぇ〜?ここ・・・感じんの?」

 智早に含み笑うように言われ、顔を朱くしたハジメは口唇を強く噛み締めた。

 しかし、次の瞬間驚愕する。智早がハジメの剥き出しの胸に顔を埋めて、あろうことか舌で先程まで指でいたぶられていた所を嘗め始めたのだ。

「や・・・っ。やめ・・・っ。や・・・ぁ・・っ」

 止めさせようにも両腕は押さえ込まれており、口を開けば信じられない声が出る。

 ハジメはどうしようもなく、気持ちがいい程の刺激と逃げ出したいほどの羞恥心で頭が変になりそうだった。

 いや、もうなっているのかもしれない。

「ハジメちゃん?ココ・・・、そんなにするほど気持ちがいいわけ?」

 最初は何を言われたのか解からなかった。だが、智早がハジメの下肢に手を伸ばすと嫌でも解かってしまった。智早が指を動かすたびに聞こえてくる淫らな音に、ハジメは耳を押さえたい衝動にかけられた。

「ほぉら・・・。ぐっちゃぐちゃ。やっぱりハジメちゃんも男なんだねぇ」

 相変わらず智早の口調はふざけたように笑っている。

 何故こんなことになったのか。いくら考えても解からない。

 何故目の前の男が男の自分にこんなことをしているのか。何故自分は男にこんなことをされて感じているのか。

 何故、憧れていた先輩が、自分と智早を面白そうに見ているのかさえも・・・。

 もう、何もかも解からなかった。

「ひ・・・っ」

 頭の中が葛藤していて、気付かないうちにハジメはとんでもない所に違和感を感じた。更にわけが解からなくて違和感をなくそうと試みるが、なかなか上手くいかない。

 ハジメは躯をよじうると、そこに圧迫感が増すのを感じたと同時に智早が舌打ちをした。

「やっぱり未貫通は硬いな・・・。指がこれ以上入んねェよ」

 ハジメの躯がビクリと揺れる。不可解な違和感の正体が解かってしまった。智早の・・・指だったのだ。

「仕方ねェな。四つん這いになって腰あげな」

 指を一気に引き抜かれ痛みを堪えるために目を瞑ったハジメは、智早に恥ずかしいことを言われて驚愕の瞳で智早を見た。

 ハジメの見たものは、口許を吊り上げ悪魔のごとく微笑んでいる智早の顔だった。

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