#2

 掴んだシーツに皺ができるほどきつく握り締める。揺れる腰を止められず、堪えるために更にシーツを掴む指に力が入った。

「あ・・・っ。い・・ぁ・・・っ」

 明らかに嬌声だった。初めは唾液で唾液で濡れた指だけだったのに、今はそれに混じって智早の舌までハジメの中に入っていた。

 智早が舌で中を掻き回すように蠢かすと、ハジメの腰は堪らないといったように揺れる。そこは既に柔らかかった。

「そろそろ・・いっかな?」

 たっぷりと濡れたそこに何か熱いものがあてがわれたと頭の隅で感じとると、息も吐かないうちにそれを奥へと押し込まれた。

「ぐ・・・い・・ぁ・・・っ。い・・たい・・・っ」

 強引なそれはなおも進入を止めない。

「やぁぁ・・・っ」

 躯が強張る。頬に暖かいものが流れた。

 それが涙だと気付く余裕もなく、ハジメは熱く自分の奥に入り込もうとするモノから身を捩った。

 しかし、強い力に引き寄せられ、更に奥へと入ってしまう。

 声も出せず、ただ口唇を震わせていた。

「泣いてるのか?」

 背後から聞こえてきた声は、優しい音だった。

「力、抜けよ。俺もお前も愉しめないだろう?」

 智早はハジメの前に手を回すと、ハジメの小さくなってしまったそれを掴んで上下に擦り上げ、同時に腰をゆっくりと回すように揺らす。

「は・・・ン・・っ」

 その時、ハジメは自分の中に何が入っているのかを知ってしまった。

 痛みを伴うその行為がいけないことだということは知っていた。

 しかし、ハジメの意思とは関係なく躯はその行為に慣れるどころか快感さえも覚え始めていく。

「や・・っ。怖・・いっ。怖いィ・・・っ」

 ハジメは恐怖を感じていた。

 今、強引に自分を変えられている。この先にどんなことが待っているのか解からない。

「大丈夫。大丈夫だ」

 慣れない快感をもてあましながら、自分が自分でなくなる恐怖で震えているハジメをみて、智早は同じ恐怖を覚えていた。

 ハジメを見ていると自分でなくなるような、自分が変わってしまうような感覚。最初から感じていた。

 それでもハジメを抱かずにはいられなかった。






 二人はほとんど同時に達した。

 二人の荒い息の音がしばらくあたりに響く。

 智早はハジメごとベッドに沈み込むと、瞳を閉じて余韻に浸っていた。

 これほどの開放感を味わったのは久しぶりだった。

「で?よかったか?智早」

 頭から冷水を浴びせられた気分だった。生田の存在をすっかり忘れていた。

 ハジメも同じだったらしく、声を掛けられた瞬間ハジメの背中が大きく揺れた。

 智早はゆっくりと躯を起こすと生田を振り返る。その時、未だにハジメの中に入ったままだったモノが動き、ハジメは小さく声を上げた。

「・・・まあな」

 漠然としない答えだったが、生田は引っ掛かりを感じながらもハジメを見遣った。

 ハジメはまだ焦点の合わない目で惚けたようにあらぬ方向を見詰めていた。

「なあ・・坂遠」

 生田の呼びかけに気付いたハジメはいつもと同じにまっすぐ生田を見た。違うところは瞳が淫らに濡れていることだけだった。

 ハジメの傍らに歩み寄った生田は、その手を取って言った。

「俺も犯っていい?」

 ハジメの瞳が大きく開かれた。まさか生田がそんなことを言い出すなんて思いもしなかったのだ。

 生田は驚いているハジメに気付いてはいたが、智早を振り返って聞いた。

「いいか?智早」

 衣服の乱れを直していた智早は、突然声を掛けられて不思議そうな顔をした。

「別にいいんじゃねェ?」

 何で俺に聞くんだよ、とでも言いたそうな顔に生田は苦笑する。

「さて、智早のお許しもでたし・・・」

 生田は再びハジメに向き直る。一瞬躯を震わせたハジメは尻で後退るが、生田に簡単に追い詰められてしまった。

 ハジメの太腿に光る白い智早とハジメの精液に興奮し、生田はハジメの腕を掴み強引に引き寄せた。その拍子に奥に放たれた智早の精液がドロリと脚を伝いハジメは眉を顰めたが、そんな場合ではないと思い懸命に抵抗した。

 いつまでも抵抗を止めないハジメに焦れた生田は、智早を呼びつけてハジメの手首を持っているように言った。

 智早もそれに従い、両手首を持ってハジメを背中から抱え込んだ。

「ま、3Pもいいよな」

 生田はハジメの足を担ぎ上げると、一気に自分の昂ぶった怒張を挿入した。

 智早の精液で濡れていたそこは、拒むことなくすんなりと生田を受け入れた。痛みは何もなく、そこから快感だけが広がる。

 口が塞がらず、甘い声で喘いでしまう。何も考えられず頬に再び涙が伝う。

 口唇に温かいものが触れた。柔らかいものがハジメの口唇を割って、舌に絡みつく。

 ハジメは訳が解からず無意識のうちに自分から舌を絡ませた。

 それが智早の口唇であると判断することは、今の初めには到底出来ないことであった。






 右手にホッチキスを持って、数枚のプリントを機械的に留めていく。今、この生徒会室には会長とハジメしかいない。

 この学校の生徒会は、会長、副会長、会計書記の3人で成り立っている。――と、いうことは、今欠けているのは副会長の生田だけであった。

 黙々とプリントを束ねていると、突然生徒会室の扉が開いた。

「・・・どういうことだよ」

 ドアを苛立たしげに開けた人物は、ハジメもよく知っている人物だった。

「それは、こっちの科白だ。遅刻した分際で何だ?副会長」

 会長は頬杖をついて呆れた顔で生田を眺めている。

「遅刻したのは悪かった。でも・・・」

 生田はしかめっ面で会長の座る席まではや歩きする。そして、バンっと、机を思いっきり叩くと大きな声で叫ぶように怒鳴った。

「どうして剣道部の部費よりバスケ部の部費が少ないんだ!!」

 生田は、あと少しで口唇同士がくっつくんじゃと思うくらい顔を寄せて怒鳴っていた。

 生田はどんな時でも力の限りを尽くすが、バスケ部のことになると何よりも真剣になる。

 ハジメはその横顔に惹かれたのだ。

「言わせて貰うが、剣道部には実績がある」

「バスケ部だってあるだろう!?」

 二人は決して目を逸らそうとはしない。怒りだっている生田とは反対に、会長はいたって冷静だった。

「今年の夏の全国大会ベスト3か?」

「そうだよ」

「だが、バスケ部はコレが初めてだよな?」

 会長の切り出しに生田がぐっと息を詰まらせた。

「剣道部はちがう。毎年全国大会で上位の成績を収めている。ぽっと出のバスケ部とは訳が違う」

 会長の辛辣な言い方に、生田の目が吊り上る。

「あぁ? ぽっと出だぁ?」

「ぽっと出はぽっと出だろう。悔しかったら次も全国大会を狙うんだな」

 会長は3学年。生田は2学年。

 学年が違うにも関わらず、二人はいつもこの調子であった。

 生田は舌打ちをすると、わかってるよ・・・と会長に背を向けた。

「っくしょう・・・。次こそ絶対に勝ち抜いてやるからな」

 野心に満ちた表情だった。

 生田はいつも何か野望を持っていると常日頃からハジメは思っていた。

 野望が強いだけじゃない。それを実行に移せる人なんてそうはいない。

 ハジメはどうしようもなく惹かれている自分に戸惑っている。だが――。

 昨日のことがハジメの頭をフラッシュバックする。

 ハジメは口唇を噛み締めた。

 昨日、行為が終った頃には昼休みなどとっくに終っていた。当たり前だろう。二人がかりで幾度も昂められたのだ。

 ・・・先輩・・・。何であんなことしたんだ・・・っ

 あれは立派な強姦だった。男のハジメでもそう言っていいのか解からないが、明らかに犯罪であった。

 そして、その前の煙草も・・・。

 あんなことがあったのに、生田に失望できない自分が悔しい。いや、呆れているのかもしれない。

 生田をまだ好きでいる自分に・・・――。

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