だから青春というものは。

 

#4

「そりゃ、もう終わったな」

 それが大切な友人に対する言葉ですかっ

 裏庭での出来事を話した俺に、テルの一言はそれだった。

「終わった。うん、終わったよ・・・。けどな、俺にはどうしようもないよ・・・」

 青春時代・・・。

 そりゃあ後悔しないとはいわない。今の今まですんげえ後悔の真っ最中だったしな。

 男同士なんてどうすんだよ。影でコソコソ付き合って、いつ誰にバレるかビクビクしながら青春時代を終わらせろと?

 ・・・何で頷いたりしたんだ、俺。

 ビビビと惚れてしまったものの、憧れの青春時代を捨てきれない・・・。

「そうかー。ついに翔も魔の手に落ちちゃったかー」

 魔の手って何だよっ

 悲しみのどん底にいる俺をさらに落とすような言葉は慎んでくれたまえっ

 ん?

「翔・・・も?」

 も。って言ったか? コイツ、今、『も』って言ったよなぁ!?

「だって、この学校ホモの巣窟じゃん?」

 ひいいいいいいいいいいいいいっ

 何か恐ろしいことを耳にしたのは気のせいか?

 ・・・そうか俺は染められてしまったわけだ。

 右を見ても男。左を見ても男。それじゃあホモになっても仕方ないかもな・・・。

 ていうか、俺以外なら誰がホモでも構いやしなかったのにっ

 ・・・と、待てよ・・?

「ってことは何か? もしやこの学校は、ホモに対してオープンなのか?」

 俺の言葉に、友人は何を今更とあきれた視線を投げてきた。

 こ、これはもしや・・・っ。

「せ、青春時代が帰ってきた!!」

 そうだ。そうだよ。

 周りもホモならコソコソする必要も無ければビクビクする必要もないもんな。

『市ヶ谷くん。顔にお弁当ついてるよ?(パクン)』

『あ、先輩ったら(テレテレ)』

 青春だ・・・っ!!(キラーン)

 この際男ということは目をつぶろう。

 なんたって一撃でヤられたしな。心に嘘はついちゃあいけない。

 世間体がなんだ!!俺は先輩を好きだと堂々と言えるぞ!

 別に先輩と青春を両天秤にかけた訳じゃ断じてないからなっ

「うわっ!何ニヤけてんだ気色わるぃ!」

 ・・・・おい。大切な親友様に向かってなんという口の利き方だ。

「気色悪いだぁ? そりゃお前の顔だっ。コノっコノっ」

 目尻を吊り上げた俺は、ここぞとばかりにテルの頬を引っ張った。

「いひゃひゃ・・・。いひゃいってば」

 当然痛がって俺の手を引き離そうとする。んが、意地でも離すもんか!!

 人が真剣に悩んでいるというのに何て暢気なんだっ。

 そのときだった。突然思わぬ人から声を掛けられたのは。

「市ヶ谷くん」

 思い切り力を込めて抓った頬を伸ばしていた俺は、その声を耳にした瞬間躯が凍りついた。

 こ、この声は・・・っ

「せ、先輩・・・っ?」

 振り返ると予想通りに5分前に別れたばかりの夜須先輩が立っていた。

 3年の教室に帰ったんじゃなかったのかよっ

「言い忘れたことがあって戻ってきたんだ」

 照れたように笑う先輩。かっこよすぎるぜ・・・っ

 そしてハッと我に返った。

 俺は今何をしていた?

 俺が大人しいと思い込んでいる先輩の前で、テルの顔なんか抓って・・・っ!!

 パッと手を離して誤魔化したように笑ってみる。

 ・・・バレてないだろうな。おい。

 しかし先輩は俺とテルを交互に見遣っている。

 ばばば、バレた・・・?(汗汗)

 仕方ねぇ!必殺技を使うしかないな!!

「あの・・・言い忘れたことって・・?」

 目を潤ませ上目遣いでか細い声を出す。極めつけは頭を少し傾かせることだな。

 これで篭絡間違いなし!!

「あ、ああ。あのね、市ヶ谷くん。今日よければ一緒に帰らないかな?」

 気を取り直したように先輩が俺に微笑んだ。

 い、一緒に・・?

 もしやこれは放課後デート!!

 これぞ学生同士の恋愛って感じだよなっ

「は、はい・・・」

 恥ずかしそうに俯く俺っ。いかにも大人しそうだろ?

 チラリと隣を見遣るとテルが口許を引き攣らせていた。

 それも当然だろう。なんてたって俺がしおらしい態度を取ってんだからな。

 コイツとはまだ短い付き合いだが、それなりに俺のことを知っている。

 そんな俺がこんな態度に出るなんて予想もしなかったことだろう。

 当然だ。俺だって予想もしてなかったさっ

「じゃあ放課後にね」

 頷いた俺を先輩が嬉しそうに見ていた。

 こんな嬉しそうな先輩を見ると、なぜか俺も嬉しかった。

 笑顔ですっかり先輩の後姿を見送ったあと、残ったのは微妙な空気だった・・・。

「・・・なんだ今の」

「・・・夜須先輩だろ。俺の恋人」

「いや、そうじゃなくて。・・・お前、めちゃくちゃ気持ち悪かったんだけど」

「あ?何だって?」

「いやだから、お前気持ち悪・・・何でもないです」

 人間、笑顔ほど怖いものはない。額に血管が浮き出た笑顔など見た日には、一般ピープルとしては回れ右間違いなし。

 そんな一般ピープル君は、型のごとく回れ右で自席へ戻っていった。

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