だから青春というものは。

 

#6

 その日の放課後から、俺は少しずつ地を出していこうと決めた。

 ・・・が、やはり俺は嫌われるのが怖くて、いつものブリッコを装ってしまった・・・。

 俺にはできねぇよ・・・。先輩に嫌われることなんか・・・。

 そんな風に考えた頃のことだった。

 いつものように下駄箱で先輩を待っていたのだが、一向に先輩が来る気配はない。

 俺は時計を見つめ、先輩の教室まで様子を見に行ってみることにした。

 ・・・それがいけなかったのだ。

 既に人が少なくなっている廊下をゆっくりと歩く。

 学年ごとに校舎は違うが、建物は皆同じつくりだった。

 けれど、どこか違う雰囲気に、俺は少しドキドキしていたのかもしれない。

 俺は今感じているドキドキとは違うものを、この後感じることになる。

「・・・だよ」

 最初は誰かが話してる〜程度にしか感じなかった。

 しかし近づいていくうちに、二人の男の声の片方が夜須先輩のものだと気づく。

 ・・・やっぱり、先輩は教室に残ってたんだ。

 少しだけ先に帰ってしまったのでは、と疑っていた俺は、とたんに機嫌がよくなり歩調が少し速くなった。

 この後夜須先輩をみつけたら、ちょっとだけ拗ねてやるのもいいかもしんない。

 30分近く待ったのだ。それくらいは許されるだろう。

「市ヶ谷くんが待ってるから、もう行くよ」

 教室の扉に手をかけたとき、そんな声が聞こえた。

 いつも俺を優先してくれる先輩。そうさ、俺たちはラブラブなんだから。

「待てよ」

 そんな時、先輩の腕を掴んだのは相手の男だった。

 ・・・をぃ。

 額に怒りマークが出るのも無理はないだろう?

 だって俺の許へと行こうとしてる先輩を引き止めたんだぜ?

 それって横恋慕ってことだよなぁ?

 人の男に手ぇ出しやがって!!

「・・・いい加減にしてくれよ。秋住(あきずみ)」

 ため息交じりの先輩の声。

 ・・・・? 何かおかしい。

 いつもの先輩の声じゃないみたいだ。

「いい加減にするのはお前だろう?夜須・・・」

 しばらく沈黙が流れた。

 ・・・あれ? 俺ってもしかして出刃亀?

 気づいたものの、出るに出られなくなった俺は躯を屈めて扉に張り付いた。

 沈黙を破ったのは、先輩の声。クスッと笑う声だった。

「何を言ってるのかわからないんだけど?」

 からかう様なあざ笑うような・・・。

 ・・・先輩ってそんな笑い方する人だっけ?

 俺の知ってる先輩は、綺麗で優しくてフワッと笑う・・・。

「市ヶ谷のことだよ!・・・お前、そのままあの子と付き合って後悔しないのか?」

 お、俺? 俺ですか?

 もしかして、俺ってば・・・。

「あの子がお前の本性知ったらどう思うだろうな」

 やっぱりいいいいいいいい!!

 俺ってば騙されてた!?

「本性だなんて・・・人聞きの悪いこと言うなよ」

 何が面白いのか、先輩は始終笑っている。

 だが俺はそんなこと気にしている暇はなかった。

 騙されてた。俺は騙されてたんだ。

 俺は自分のことを棚に上げて、先輩に騙されてたことに酷く傷ついていた。

「それに・・・君、もう市ヶ谷くんのことを想うのやめなよね。しつこいんじゃない?」

「・・・うるさい」

 全ての言葉が俺の頭を素通りしていく。

 うまく思考がまとまらない。

 そのときだった。目の前にある扉が音を立てて開いたのは。

 目を見開いたのは両方だった。

 俺は頭の中がいっぱいで、先輩がこっちに近づいていたことさえ気づかずただ驚いていた。

 先輩は先輩で、扉の外に俺がいるだなんて思ってもみなかったとばかりに驚いていた。

「・・・市ヶ谷っ」

 声の出ない俺たちの代弁をするように、先輩の後ろに立っていた男が俺を呼んだ。

 しかし俺たちはお互いを見つめたまま微動だに出来ずにいる。

「・・・いつからそこに?」

 先輩はいつものように笑おうとして、失敗したのか一度だけ舌打ちをした。

 俺は・・・。

「聞いてしまったんだね」

 俺の様子に、先輩は静かに呟いた。

 その声に、俺はハッと顔をあげる。

「俺に言いたいこと、ある?」

 聞くけど。と言った先輩に、俺は何と言っていいのかわからない・・・。

 俺を騙してたの?

 俺を好きって言ったのは嘘?

 本当の先輩は・・・どこに・・・・。

「・・・じゃあ帰ろうか」

 何も言わない俺に、先輩は俺の腰に手を回して、ふと気づいたように手を離し改めて俺の手を握った。

 先輩と俺は腰に手を回すような関係なんかじゃなくて、いつも優しく手と手を取って・・・。

『僕たち恋人だもんね。手をつないだっておかしくないよね』

 嬉しそうに微笑んだ先輩はどこに行ったの?

「市ヶ谷!それでいいのか!?」

 俺はビクリと躯をとめた。

 何事もなかったかのように俺を連れ出す夜須先輩と、先輩に連れられるままただ歩いていこうとする俺。

 それに今まで先輩が言い争っていた男が叫んだのだ。

 俺が止まったことに、夜須先輩は舌打ちをして振り返った。

 その舌打ちに俺は更にビクリと躯を震わせた。

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