彼はエイリアンA

 

 秋住(あきすみ)の所為で一時はどうなることかと思ったが、俺たちは今も共に歩いている。

 しかし、いざ一緒に過ごしてみると、俺はどうすればいいのかさっぱり解らなかった。

 女の子と付き合ったことぐらいはあるが、男の子と付き合ったことなどない。

 デートにしたってどこに行ったら・・・?

 結局俺は、どうしたらいいのか解らずに今までどおりの手順を踏むことにした。 

「市ヶ谷くん、今日は駅前のアイスクリームでも食べて帰ろうか」

 そう言った俺に、市ヶ谷くんは「男同士なのに?」という顔をした。

 彼がそう思うのも当然だろう。・・・俺もそう思うよ・・・。

 けれど俺は。

「ん?」

 何か言った? そんな言葉を含めて市ヶ谷くんを見る。

 それに市ヶ谷くんは慌てて首を振った。

 その様子に思わず微笑む。

 彼との関係が少しだけ変わったのには嬉しい誤算だった。

 まずどこから話そうか。

 そう、市ヶ谷くんの様子が少しずつ変化していったことから話そう。






 最初は何も思わなかった。

 けれど次第に、「あれ?」と思ったのが「もしかして・・・」に変わっていき・・・。

 決定的だったのは、彼の教室の前を偶然通ったときだった。

 俺は恥ずかしくも、たまたま用事があって通りかかった恋人の教室から、恋人の姿を眺めようとコッソリ窓を覗いたのだ。

 思い返してみればストーカーもいいところじゃないかと自分でも思う。

 けれど、その時は市ヶ谷くんの姿が見れると思うだけで他は何も考え付かなかった。

 毎日一緒に登校し、一緒に下校しているというのに、何だろうこの寂しさ。

 無償に市ヶ谷くんに会いたかった。

 窓の影から見る市ヶ谷くんは、親友らしき友人と楽しそうにおしゃべりをしていた。

 やけに親しそうに言葉を交わす二人に、俺は知らず知らずのうちに窓枠を掴む指に力が入っていた。

 ・・・それ以上近づいたら命は無いと思え・・・。

 思えば初めてあの野郎・・・いや、市ヶ谷くんの親友を見たときも思った。

 なんて仲の良さそうな・・・。

 俺は嫉妬に目がくらみそうになりながらも、何とか長年飼っている猫をかぶり続けた。

 ソイツが今、俺の目の前で俺の市ヶ谷くんと・・・っ!!

 このまま殴りこんでやろうかと思ったそのときだった。

 驚愕に目を見開く。そんな感じだった。

 突然、市ヶ谷くんがその親友にとび蹴りを食らわしたのである。

 遊びの範疇で軽く蹴ったなんてもんじゃない。

 力を込めて思い切り、それも・・・。

「んだ、こらああああっ!!なめてんじゃねーぞ!!」

 あああああああああれは誰なんだ!?

 俺は動揺していた。けれど躯は氷のように固まっていた。

 その後も二人は何かを言い合っていたが、先ほどの叫び声以外、距離がある所為で聞こえなかった。

 ・・・なめてんじゃねーぞ・・・なめてんじゃねーぞ・・・なめてんじゃねーぞ・・・。

 市ヶ谷くんのかわいらしい声が胸のうちに響く。

 今まで信じてきたものは何だったのだろうか。

 やはりあの噂は本当だった・・・?

 俺はフラリとその場を離れた。

 その時の俺の思うことはただひとつ。

 ・・・俺は騙されていたのだろうか・・・。

 フラフラと脚に任せたまま、のたりのたりと躯が進む。

 次第にフツフツと怒りが込み上げてきた。

 なんていうヤツだろう。この俺を騙すだなんて。

 未だかつてこのような屈辱を味わったことがない。

 きっと彼は、易々と騙され浮かれている俺を、胸のうちでせせら笑っているに決まっている。

 どうしてくれよう、この始末。

 俺は気がつくと無意識に自分の教室に戻ってきていた。

 タイミングよくチャイムがなり、ゆっくりと己の席に着く。

 次の授業の教師が教室に入室し、日直の号令とともに皆が席を立った。

 それに習って俺も一緒に席を立つ。

 号令が終わり、座りながら先ほどの、仲の良さそうな親友と本当の顔で笑っていた市ヶ谷くんを思い出していた。

 ・・・覚えてろよ。今のうちに精々笑っているがいいさ。

 口許に暗い笑みを浮かべ、俺は放課後を楽しみにしていた。






「先輩・・・」

 いつもの待ち合わせ場所。

 皆が使う昇降口で、先に終わっていたらしい市ヶ谷くんが待っていた。

 俺が近づくと、彼は顔を上げてホッとしたような声で俺を呼んだ。

 その瞬間、ホワッと暖かいものが胸のうちを占領した。

 ・・・騙されるな。これは本当の彼じゃない。

 俺は口唇をキュッと引き締めると、おざなりに笑って彼の手を取り学校を出た。

「・・・今日どこか寄ってく?」

 いつもと同じようにニッコリ笑って市ヶ谷くんを見つめた。

 彼はこういうだろう。『僕・・・先輩がいればどこでもいい・・・』

 俺に見つめられた市ヶ谷くんは、案の定いつもの台詞を言葉にして、恥ずかしそうに俯いた。

 ・・・さぁ・・・本性をださせてやるよ。

「じゃあ・・・僕の家に・・・来る?」

「え?」

「嫌かな?」

 少し寂しそうな顔を作って。

 それに市ヶ谷くんは、慌てて顔を横に振った。

「・・・行きたいです」

 俯いたままで、それでも僕の手をギュッと強く握って言った。

 ・・・馬鹿だな。どうなろうと僕は知らないよ。

「じゃあ行こうか」

 コクリと頷く市ヶ谷くんを連れ、俺は帰途へついた。

back top next

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送