#2−1 

聡里-side




 
布が擦れる音。淫らに響く濡れた音。上等であろう寝台が軋む音。

 音、音、音―――。

 聡里の躯が捕えるのは音だけだった。

 既に朦朧とした頭は、何を考えるでもなく、ただその行為を受ける入れる。

「ぁ、ああっ・・・あぁ・・っ」

 ひっきりなしに出る嬌声だとか、激しく肩で呼吸を繰り返す音だとか・・・。

 そんなものは既に遠かった。

「ふふふ・・・。聡里様。私は貴女のことを以前からお慕いしていたのですよ」

 聡里の躯の上で一心不乱に動き続ける。

 たまに触れる男の長髪の感触さえもう感じない。

「お城へ行くたび、何度も見かけました。貴女が他のご姉妹と遊ばれているところを。遠目からではありましたが、それでも私の身分だからこそ、そこまで貴女に近づけたのです」

 男は東の地を治める地位にいた。名を耶西(やにし)といい、城に招かれる数少ない人間の中の一人だった。

「私は幸運だ。西を治めるあの男も貴女を見て頬を染めていたではないか。私は知っているのだ・・・っ」

 聡里を押さえつけるように上から畳み掛ける。

 その激しい律動に、聡里は悲鳴とも取れるような声を上げた。

 やがてその激動も止み、しばらく静かな時が流れた。

 耶西は呼吸を整えると、ゆっくりと・・・だがねちこい程に聡里の頬をなで上げる。

「こうして貴女が私の腕の中にいる。まるで夢のようだ・・・」

 耶西はいつまでも聡里を見つめながら、頬をなでていた。

 その聡里の瞳は、始終ぼんやりとして一点を見つめたまま動かなかった。

 やがて頬を撫でていた指がゆっくりと下へと降りていく。

「はぅん・・・っ」

 聡里の躯がピクリと跳ねた。

 耶西の指が聡里の中心に聳える肉芽に触れたのだ。

「まさか貴女が男(おのこ)であるなどとは・・・思ってもみなかったが・・・」

 ゆっくりと撫ぜるようにして患所を揉む耶西は、浅い呼吸を繰り返し喘ぐ聡里痴態に満足げに微笑んだ。

「それでも貴女の魅力には何の問題でもない」

 臀部に指を滑らせ濡れている穴に指を潜ませる。

 小さい声を上げて締め付けるその動きに、耶西は上唇を舐めそのまま聡里の口唇を奪った。

「どうだ、姫よ。気持ちがよかろう」

 指を増やし、探るように何度も回す。

 その度に聡里の躯は面白いように波打った。

「貴女の感じる場所は既に把握している。・・・が、貴女を焦らすことはまた一興・・・」

 淫らに腰を揺らして催促をする聡里に目を細める。

「淫らなことだ・・・。斎王様がお知りになったらどう思われるだろう? 今は亡き両陛下が見たら・・・」

 笑いを漏らしながら聡里の両足を担ぎ上げた。

 聡里の脚は、長い間筋肉が使われておらず僅かにだがやせ細っていた。

「そんなことは取り越し苦労というも。あのお方が貴女を目にかけることもう二度とない」

 戯れるように動かしていた指をぬぷんと抜き、再び己の怒張を押し当てた。

「貴女は男から離れては生きていけない躯なのだ」






柊-side




 湖に向かって小石を投げている背中を足蹴にする。

「痛・・・っ。何しやがる!!」

「なぁに。暗ぇ背中にカツいれてやったんだよ」

 そのまま暗い顔をした男の横に座る。

「で?どうだった?」

 いじけたように・・・いや実際にいじけている男にちらりと横目をやった。

「・・・どうって。見て解るだろう?」

「ほお?」

 肩眉を上げた柊に、男・・・継嗣(けいし)は眦(まなじり)を吊り上げた。

「いちいち嫌味なヤツだな。こうして一人で帰ってきたんだ。玉砕したに決まってるだろう!!」

「女のことか」

「それ以外何がある」

 いかにも憤慨といった感じの継嗣に、柊は阿呆かを一言いい、軽くもう一度足で蹴った。

「俺はお前が調べにいったっていう市場調査について、聞いたんだがなぁ?」

 継嗣は一瞬怪訝な顔を向け、その次にやっと思い出したかのようにして言った。

「・・・ああ。そっちか」

 継嗣はため息をついてまたひとつ、小石を投げた。

「別に何も報告するこたぁねぇよ。変わったことっていやぁ、鉱石が手に入りにくくなったことぐれぇだな」

「ああ・・・石、な」

 この国は鉱山採掘で有名で、そこで取れる種類さまざまな鉱石が特産物だった。

 しかし、先の戦争で敗れた代償に、鉱石を大量に輸出することになってしまった。それで鉱石不足寸前というところまできているのだ。

 柊たちなどは鉱石など特に関係の無い話だが、職人にとっては食いかねる話だった。

「ま、国が負ければ何かが起きるってね」

「そういうこった」

 しばらく小石が湖のそこに沈む音が続いた。

「そういえば、俺がいない間何かあったか?」

「あ?いや何もねぇなぁ」

 呟いて空を仰ぐ。

 ふと、ひとつ思い出した。

「ああ、そういえば。ひとつあったわ」

 酷く軽い調子で言った。

 本当に今の今まで忘れていたのだ。

「姫を・・・掻っ攫った」

「姫・・・だぁ?」

 怪訝そうな継嗣に、柊は肩をすくめただけだった。

「米屋の姫か?それともどこかの成金貴族の姫か?」

「いんや」

「・・・まさか城から盗んできたわけじゃねーだろうな」

 鼻の頭を軽く掻いた。

 その仕草に、『どこの姫』を攫ったのか解ってしまっただろう。

「・・・行方不明の聡里姫は、アンタの仕業だったのか・・・」

 城からではないけどな、といった柊に、継嗣はため息をついた。

「聡里姫?」

「いなくなった姫といえば、聡里姫以外いないさ。花の様な幼姫。2番目の皇子と双子の妹で、1番目、2番目、のような豪快な美貌ではなく、素朴だが人目を引く・・・華がある姫・・・だったかな」

 暗記した言葉を棒読みで話す継嗣に、胡散らしい目を向ける。

「なんだよ、その『だったかな:ってのは」

「仕方ねぇだろ。俺ごときが目にいれられるお方じゃないってことさ」

 継嗣の情報網はすさまじい。

 柊の盗賊団は、ほとんど継嗣の情報で生きていると言っても過言じゃないだろう。

「で?その姫は今どこだぁ?」

 いそいそと立ち上がり、傍から見ても嫌らしく口許を吊り上げた継嗣が塒(ねぐら)へと脚を運んでいく。

「おい、お前、惚れた女はどうしたよ」

「ああん?知らないね。あんな尻軽」

 ・・・さいですか。

 まったく立ち直りの早い男である。

 付き合ってられないとばかり、柊はため息をついた。

「姫さんならもういねーよ」

「・・・って」

「売った」

 きっぱりと言い放った柊を勢いよく振り返った。

 その形相の凄いこと・・・。

「おいおい・・・そりゃねーよ!せっかく人目見れると思ったのによぉ・・」

 地に脚を引きずるようにして戻ってきた。

 再び柊の横に腰を下ろし、また小石を投げはじめる

「誰に売ったんだぁ?」

「城下酒場によく来る情報屋がいるだろう。あいつの仲介だ」

 ああ、アイツね・・・と呟き継嗣は黙った。

 継嗣も暗黙のルールは知っている。それ以上は聞かなかった。

「じゃあかなりの収入になったんだろう?」

「まあな」

「湯殿作ってくれや。いい加減湖は冷たくてよぉ〜」

 姫の話は諦めたのか、継嗣はさっぱりとした声で言った。

「・・・そうだなぁ。ここらで部屋も増やしてやるか」

 人数が増えてきて大部屋が凄いことになっていた。

 初めは少人数だった柊たちも、時を重ね若い衆も入ってきて・・・。

 目を瞑ってきたがいい加減限界だろう。

 また金がかかる・・・と、柊は次なる仕事を模索し始めたのだった。


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