#3−2 柊-side
「紹介する。新しい仲間だ」 そう言って聡里を指したのは、初めて広間に姿を現した日のことだった。
初めのうちは発作の起きる間隔も短く、とても皆の前に出て行けるほどではなかった聡里は、継嗣に食事を自室まで持ってきてもらっていたのだ。
しかしその日は少しずつ症状もよくなっていたので、この機会に仲間に会わせたのだ。
この先ずっとこの根城でやっていくのであれば、必要なことだった。
「あ、さ、聡里・・・です・・・。よろしく・・・おねがいしま・・・す・・・」
最後の方は消えそうなほど小さかった。
緊張しすぎな為に躯が少し震えているのがパッと見るだけで解ってしまうほどだった。
それもそのはずだ。いつもはザワザワと騒がしい広間が、今はすっかり静まり返っているのだから。
ちゃんと受け入れてもらえるのか・・・。そんな気持ちが渦巻いているのだろう。
そんな中、ひとりの男が聡里の前に出た。
「俺は有蓋(ゆうがい)。よくやる仕事は物取りだな。つまり力仕事っつーこった」
よろしくな、と握手を求められ、聡里は慌てて右手を差し出した。
それをきっかけに、あちらこちらから声が掛かる。
「これでお前も正真正銘、俺たちの仲間だよ」
聡里の隣に立っていた継嗣が、聡里の頭をポンと軽く叩いた。
それに見るからにホッとした様子で、聡里は胸をなでおろしていた。
「よぉし、お前ら酒は行き渡ったかーっ?」
躯の大きい有蓋が、乗り出すようにして手に持った酒を振り上げ叫ぶ。
その声に応える様に、皆が「おーっ!!」という叫び声と共に各々好き勝手に怒鳴りあっていた。
「姫さんもちゃんとグラス持っとけよ。飲みはぐれても知らねぇぞ!」
「は、はい」
慌てて聡里が目の前に置いてあったグラスを掴みあげていた。
「そんじゃー、まあ、新しい仲間と中途半端だったアジトの完成を祝ってー・・・乾杯!!」
その合図に皆が一斉に飲み始める。騒がしいことこの上ない・・・。
「おい、お前ら。姫さんは継嗣のモンだからな。悪さすんじゃねぇぞー」
手近にあった骨肉に被りつきながら、継嗣と聡里を顎でしゃくって言った。
案の定、聡里は真っ赤になって顔を伏せ、それに継嗣は怒る振りをしながらも顔はニヤけている。
「人のモン欲しがるのは継嗣くらいしかいねぇよ」
ドカッと柊の隣に座りながら言ったのは、今まで騒ぎの真ん中にいた有蓋だった。
「・・・人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ」
継嗣が眉を潜めて睨みを効かせるも、慣れ親しんだ仲間には全く効果はない。
それどころか、更に追い討ちをかける男もいるくらいで。
「姫さん、継嗣が浮気したら仕返ししてやんな!」
笑いながら言ったのは、有蓋とコンビを組んでいる燕(エン)だ。
小さいながらもその体格を活かした動きをする。
「するか馬鹿が!」
継嗣が燕の頭をゴツッと殴るのを見て、聡里は笑みを零していた。
声を出して大笑いとまではいかないが、それでも笑っていたのだ。
それを見て、思ったよりも状況を受け入れているんだということに、柊は安堵した。
「頭ぁ〜。今度アッシの部屋も作ってくださいよぉ」
「阿呆か!皆の分まで作ってたら金がいくらあったって足りやしねぇよ」
武蔵野のヤツは既にかなり酒が回っているらしい。
赤い顔をして足許はフラフラだ。
「おいおい、武蔵野よぉ。俺より先に個室貰おうたぁいい度胸じゃねぇか。ああん?」
有蓋が肉を掴んだままのベトベトした手で武蔵野の頭を掴んでいた。
それに柊は苦笑して、グッとグラスの酒を煽った。
「お前がすげぇ活躍でもしたら考えてやるよ。なぁ?継嗣」
「そういうこと」
更に皆が沸きあがり、その晩、広間はいつまでも喧騒が続いたのだった。
To be continued・・・
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