#5−4 柊-side

 適当な木の棒を拾い、何とか気合で魚を貫いた。

 少し動くだけでも正直辛い。しかしあの崖から落ちてこの程度で済んだのならば、運がよかった方だろう。

 崖の下が川だったことが幸いした。

「・・・っ」

 不意に走った激痛に、小さく呻き脇腹を片手で押さえた。

 どうやら転がり落ちる時に木や岩やらにぶつかり脇腹を痛めてしまったらしい。

「・・・この感触なら、骨まではいってねぇな」

 素肌に直接着ているチョッキで隠すようにすると、何とか捕まえた2匹の魚を手に聡里を寝かせてある洞窟へと戻った。

 この辺りでは釣りをする輩が多いのかもしれない。

 洞窟には、使い古された焚き火の跡、それから魚を焼く為の細い鉄棒も置いてあったのだ。

 洞窟に入っていくと、聡里は目を覚ましていた。

 裸の上半身に一瞬心臓が跳ねたが、サッと視線をそらし、魚を串刺しにしていく。

 状況のわかっていない聡里に、ここまで行き着いた状況を簡単に説明しつつ、聡里には「脱がせただけで何もしてない」とは言った。

 ・・・の、だが・・。

「おい、姫さんっ!」

 何故こんな事態になったのか。

 柊は今、背中を地面に預け、聡里に伸し掛かられている状態にあった。

 目の前に迫る聡里の目は潤んでおり、時折喘ぐような呼吸をしていた。

 何故こんなことになったんだ・・・。

 思い返そうと試みるが、艶かしい素肌を目の前に、思考がうまく回らない。

「おい、ちょ・・・っ」

 聡里の舌が、柊の脇腹・・・傷跡を這った。

 事の発端はこの傷跡だった。泣きそうな顔の聡里が傷跡に触れようとするのを両手で塞いだ後、聡里の様子がおかしくなった。

 柊に塞がれた両腕もそのままに傷跡を見ていたと思ったら、ゆっくりと顔を近づかせて傷跡をその赤い舌で舐めたのだ。

 瞬間、電気が走ったような衝撃。

 柊はあまりに驚愕と、とっさのことで微動だにできなかった。

 その間も聡里の舌は夢中で傷跡をなぞって行く。

 ハッと我に返った柊が、躯を捩り聡里から遠ざかろうとすると、それをさせまいとする聡里によって躯が地面に倒れ・・・・・そして今の状態に至るわけなのである。

 聡里ごと躯が倒れた時点で、腕の拘束は解けてしまった。

 柊は、何とか聡里を上から退かそうと、両腕で聡里の肩を掴みあげるが、とたんに指から伝わる柔らかい感触・・・。

 今まで何度か理由あって聡里の躯に触れたことはあったが、このような状況で初めて触れた聡里の躯に、柊は場合も考えず生唾を飲み込んだ。

 しかし首を振って邪心を振り払うと、勢いよく聡里の躯を引き離した。

「やぁ・・・」

 洞窟内に響いた甘い声にビクリとする。

 やましい感情を持っている柊は、目の前にある少し桃色に染まった躯から目をそらした。

 柊にはひとつだけ、こうなってしまった心当たりがあった。

 聡里は少し前まで重度の薬中毒症だった為、薬が抜けた後もたまに発作が起こると継嗣が言っていたのを思い出したのだ。

 実際にその姿を見たことは無いが、それに間違いないと思った。

 でなければ、こんな・・・。

「・・・こんな都合のいいこたぁ起きねぇっつーの・・・」

 目を瞑り、右手を額に当てた。

 出来ることならこのまま甘美な躯を貪りたい。

 しかし聡里は継嗣のものだ。それに、この痴態は聡里の本当の意思ではないのである。

 迷う問題では全くないはずなのに・・・。

 柊は、聡里の肩に左手を置いたまま離せずにいた。

 そして薄目でチラリと聡里を伺うと、トロッとした瞳で聡里も柊の様子を見ていた。

 柊は今まで中毒者を間近で見たことが無かった。それゆえ判断できずにいるのだが・・・。

 ・・・こういう場合、相手をした方がいいのだろうか。

 発作が起きた場合、あまりの発情に狂ってしまうという例もあるという。

「・・・なんて、ただの言い訳か・・・?」

 柊は何度か舌打ちをすると、押し倒されたような状態の躯を上下入れ替えた。

「アッ」

 聡里を見下ろし、ジッと見つめる。

 トロリとした瞳、紅潮した頬、しどけなく開いた口唇。

 柊はゆっくりとその口唇に近づいた。

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