#6−1 聡里-side

 目が覚めたとき、聡里は見知った部屋の寝台の上にいた。

「よぉ。よく眠ってたな」

 覗き込む様に傍らにいたのは継嗣だった。

 柔らかく頭を撫でられ、安堵した気持ちで息を吐く。

「痛ぇ所とかねぇか?」

「あ、うん・・・」

 上半身を起き上がらせるのを手伝ってもらいながら、ボーッとする頭で生返事を返す。

 所々痛みを感じはするものの、ほとんど小さなものだ。

「あーあ。擦り傷だらけ」

 腕をとられ、撫でるように継嗣にあちこちを指で追われた。

 そのこそばゆい感触に思わず笑みがこぼれる。

 それに気づいた継嗣も笑って、更にその細かい傷々に口唇を寄せた。

「・・・くすぐったいよ」

 しばらくは我慢していた聡里だったが、あまりのこそばゆさに笑いながら継嗣の顔を押しのけようとする。

 けれど益々口唇や舌で傷を舐められ、二人は笑いあいながら寝台を転がった。

「おーい。そろそろ広間に集合だぞ〜」

「・・・っと、じゃ俺は行くけど、聡里はそのまま寝てていいからな」

 扉の向こうから聞こえてきた声に、継嗣はヨイショッと腰を上げた。

 広間に集まるということは何か話し合いがあるということなのだろう。

 不意に継嗣が聡里の視線を読み取ったように。

「・・あぁ。この場所知られちまったからな。俺たちは綺麗な身じゃねぇし、知られてない方が遣り易いんだ」

 それは・・・もしかして・・・。

「・・・僕の所為?」

 声が震えた。

 場所を知られてしまったのは、聡里がこのアジトにいたからに違いなかった。

「何いってんだ。俺たちは盗賊だぞ? それもすんごい盗賊だ。そんな盗賊が他の同業者からマークされないはずないだろう?」

「え?あ、うん」

「遅かれ早かれ、いつかはバレてたんだ。この場所にも長くいたからなぁ。今が引越し時ってね」

 口の端を吊り上げて笑う継嗣だったが、聡里が原因なことには変わりは無い。

 不意に曇った聡里の顔に、継嗣の優しい指先が触れた。

「そんな顔すんなって!ほら、こっち向きな」

 頬を包まれるように触れられ、そのまま口唇が合わさった。

 握っていた拳が次第に力を失っていき、継嗣を掴もうと少しずつ上へ・・・。

 そのときだった。何の前触れも無く扉が開いたのは。

「おい、継嗣、そろそろ時間・・・。っと、悪い。はやくしろよ〜」

 扉を開けて入ってきたのは柊だった。

 重なり合う二人を見た柊は、用件だけを言うとさっさと扉を閉めてどこかへ行ってしまった。

「悪ぃ。ちょっくら行って来るわ」

 頭を乱暴に掻き振り返った継嗣は、そこに硬直している聡里に気がつきその顔を覗き込んだ。

「・・・聡里?」

 聡里は扉を凝視したまま微動だにしていなかったのだ。

 いや本当に見ていたのかなんて解からない。

 継嗣に肩を揺さぶられ、ようやく我に返る。

「ぁ・・・」

 小さく声をあげたきり俯いた聡里に、継嗣は怪訝な顔をした。

 しかし気を取り直したように聡里に笑いかける。

「ま、行って来るわ。お前はおとなしく部屋で休んでな」

 継嗣が優しく頬を撫でても聡里は何も言わなかった。・・・言えなかった。

 どうして忘れていたんだろう。



 昨日、僕は、柊さんと・・・。






柊-side


 柊はひとつ溜め息を吐いた。

 凍りついたような怯えた目をして柊をみていたのだ。

 当然だろう。薬の副作用で己を保てていなかった聡里をいいことに、柊は聡里の躯を思いのままに貪ったのだから。

「悪ぃ。遅くなった」

 皆が集まっている広間に、継嗣が小走りで入ってきた。

 継嗣はあの時何があったか知っている。

 柊が・・・聡里にしたことを。






---後で話がある。



 それを聞いたときの継嗣の顔が忘れられない。

 思えば、あの時既に何があったか予想はついていたかもしれない。

 あの日の夜、継嗣が柊の自室へやってきたのは、皆が寝静まった頃だった。

「・・・すまん」

 継嗣は無言で柊を見ていたが、やがてフイッと顔をそらした。

 その動作から、継嗣が既に解かっていることが知れた。

「・・・挿れたのか?」

「あ、いや・・・。まぁ同じようなもんだが・・・」

 口ごもりながら言った柊に、継嗣は何も言わなかった。

 しばらく黙ったまま、二人は微動だにしなかった。

 沈黙を破ったのは、継嗣の深い溜め息だった。

「・・・あの跡はアンタか。ヤツらにヤられちまったのかと思ったよ」

「嘘付け。思い切り俺を疑った目してやがってくせに」

「・・・まあな」

 苦笑した継嗣に、柊も同じように苦笑して返す。

 苦い笑いとはよく言ったものだ。

 昨日の出来事はあまりに苦すぎる。

「ま、ヤツらにヤられたんじゃなくてよかったさ・・・」

「・・・どうだろうな。顔見知りのヤツにヤられる方がキツい時もあるしな・・・」

 継嗣は机に頬杖をつき、どこか遠くをみているような目をしていた。

 そんな継嗣に柊はどこか落ち着けなく、何度も脚を組みなおす。

「・・・姫さんが突然いつもの発作を出してな。ああいうのはどう対処していいのか解かんねぇし・・・」

 つい言い訳のように言ってしまった。

 何が言いたいのか自分でも解からず、頭を乱暴に掻き回す。

 それを聞いた継嗣は、驚いた顔を柊に向けた。

「発作だって?」

「ああ。本当に急だったから吃驚したけどな」

 柊の返事に、継嗣はあらぬ方向を見たまま考え込んでしまった。

 それには思わず口を挟んだ。

「おい、継嗣。言っとくけどな、姫さんを責めるんじゃねぇぜ」

 あの行為は全て自分が悪いと思っていた。

 もっといい方法があっただろう。実際聡里は何も悪くない。

 しかしあの時の柊は、目の前にあった聡里の躯に夢中になるだけで、他のことなど二の次だった。

「・・・ああ。解かってるよ」

 沈んだような暗い声。

 継嗣は伏せ目がちにもう一度言った。

「・・・解かってる」

 その顔は深い闇のようだった。

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