#6−2 聡里-side

 継嗣が出て行った後、何をするでもなく同じ姿勢のままだった。

 寝台の端に座り、昨日のことを思い出す。

 あの時、聡里は柊の傷をみていたはずだった。

 ただ、見ていただけだったのだ。

 それなのに急に覚えのあるものが躯を突き抜けた。

 それは電流にも似たような、自分の中に潜む影。

「そうだ・・・。僕は・・・」

 ・・・あの瞬間、柊に欲望を感じた。

 発作? 違う。だって、僕は・・・。

 その時部屋の扉が開いた。

 ハッと顔をあげると継嗣が部屋に帰ってきた所だった。

「けい・・・」

「ああ、起きてたのか」

 聡里の視線に気がつくと、穏やかな笑みを見せた。

 その姿を見ると胸が痛む。

 いつも助けてくれた。優しくしてくれた。

 僕を・・・愛してくれていた。

「まだはっきりと話は決まらなかった。ま・・・もう一度話し合いになるだろうな」

 言いながら、継嗣は聡里の座る寝台へと近寄った。

「そ・・う・・・」

 口唇が震えて上手く言葉が出ない。

 それに気づいているのかいないのか、突然口唇に継嗣の指が触れた。

 そっとなぞる。それだけで躯が震えた。

「聡里・・・」

 降りてくる口唇に聡里は反射的に目を瞑った。

 互いのものが重なり合い、いつにもない荒々しい口付けだった。

 勢いのまま、寝台に躯が倒れ・・・。

「け、継嗣・・・ッ?」

 あまりの性急さに聡里は胸を押し返すように腕を突っぱねた。

 しかし継嗣は構わず乱暴に口腔内を犯していく。

 服の下に潜まれた指が胸の突起を摘み、もう片方の腕が下半身を露出させていった。

 いつものような余裕を感じさせない継嗣に、聡里は戸惑いを隠せなかった。

 それでも慣れた躯である。

 その指はどこに触れれば聡里が昂ぶって行くかを知っていた。

 おざなりに最奥を解された後、両脚を担がれ熱い先端があてがわれる感触がした。

 それは一瞬だった。けれど、それは長く聡里の中にあり続ける。

 脳裏に浮かんだもの。浮かんだ・・・人。

「---ッ」

 誰の名前を言おうとしたのか。

 思わず小さく口に出し、ハッとして閉じかけていた瞳を開けた。

 継嗣も聡里を凝視していた。

 お互いが固まったまま、しばらく見詰め合っていた。

「ご、ごめん・・・ごめんなさ・・・ッ」

 先に動いたのは聡里だった。

 両手で顔を覆い、ギュッと目を瞑る。

 直前に垣間見た継嗣の傷ついた目が頭を離れない。

 けれど・・・。

 こんな、こんな時に気づくなんて。

「聡里・・・お前・・・」

 ゆっくりと継嗣が離れる気配がする。

 継嗣には解かってしまったのだ。

 間際、聡里が誰の名前を紡ごうとしていたのかを。

 その言葉に、聡里は激しく首を振った。

 その場しのぎにしかならないというのに、聡里はそれを肯定できずにいた。

 あの耶西の屋敷から助け出された時からずっと傍にいてくれた継嗣。

 ずっと・・・傍らで笑ってくれていたのは継嗣なのだ。

 いつまでも首を振り続ける聡里の肩に、継嗣は柔らかく手を乗せた。

「・・・柊が好きなんだな」

 あの洞窟で柊と肌を合わせた時、聡里は発作などではなかった。

 薬による副作用で起きる発作は、当の昔に継嗣のおかげで治っていたのである。

 発作など、起きるわけがないのだ。それは継嗣も知っている。

 全ては聡里の心の奥底にある欲望だった。

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