#8

 霞む目で辺りを見回すと、そこは踊り場ではないようだった。ハジメが力なくしている間に移動したらしい。

 見たところ、使われていない教室らしく、埃っぽい空気で余計に咳き込んだ。

 しばらくすると、目を伏せたままだったハジメの視界に誰かの足が入ってきた。

 ここに連れてきたのは意識が無くなる前に話をしていた2人だろうと、ハジメは考えた。顔を上げるとやはり踊り場であった男が立っていた。

 しかし、目に映るのは小柄な少年だけで、ハジメは不覚にもその時腕を拘束されていることに気がついたのだった。

 自由にならない躯を無理矢理捻ると、微妙に学ランが見える。大柄な男の方は後ろにいるらしかった。

 「な・・・んの・・・つもり・・・」

 呼吸が整っていない所為か、上手く言葉が話せない。

 背後から両腕を拘束されている為、少しでも身じろぐと腕が凄く痛んだ。

 何とか抜け出せないかと抵抗を繰り返すが、男の拘束は外れない。

 不意に頭部に痛みを感じたハジメは、視線を正面に戻すと驚愕に目を見開いた。

 小柄な少年が、ハジメの髪の毛を掴みあげるとおもむろに口唇を寄せたのだ。

 動揺したハジメは必死に頭を逸らそうとしたが、顎を掴れておりそれも無駄な抵抗に終わった。

「――っ」

 少しの間、濡れた音がしたと思ったら、弾かれたように少年が顔を離した。その口唇からは紅い血がチラリと見える。

「ふーん・・・。可愛いじゃん」

 少年は、血のついた口唇の端を舐め取ると、目を細めて淫猥に口許を吊り上げ、ハジメの頬を撫でた。

「俺ら、麻生に借りがあるんだよね・・・。君に手を出すなんてバカな奴・・とか思ったけど、アイツならやり遂げかねないからね。何せ、人の男、取るやつだし・・・」

 言われていることが理解できなかった。

 少年はニヤニヤと言葉を紡ぎながらもハジメの肌を露わにしていく。

「や・・・め・・っ」

 口だけで抵抗しても無駄だとは解かっていが、ハジメにはどうしようもなかった。

 腕は後に取られ、脚はしどけなく開脚させられて・・・。

 学ランは既に肩から落とされ、腕に引っ掛かっている状態で、中に着ていたシャツも、もうその役目をはたしていなかった。

 シャツを開いた所から忍び寄る少年の指の感触は耐えがたいものがあり、悲鳴をあげずにはいられないくらいだ。

 次第に指は下肢へのびていき、ベルトもズボンのファスナーも全て解かれて下着の中に入ってきた。

 その瞬間、背筋に冷水を浴びたように全身が凍った。感じたことの無い気持ち悪さだったのだ。

 今まで何回か智早に無理矢理強いられてきた行為だが、智早に対しては感じなかった嫌悪感。

 智早に触られると嫌でも反応した。自分の躯がおかしくなったとさえ思ったのに。

「や・・・っ。やめ・・・っ」

 抵抗するハジメに構わず少年は、ハジメの最奥を窺う。ハジメの躯がビクリと震えると同時にハジメ自身も反応してしまった。

 ハジメの躯の反応に気付いた少年は、うっすらと笑うと指の根元まで思い切りねじ込んだ。

「あぅ・・・っ」

 いくらも濡らしていなかった指は、拒むハジメの躯を強引にねじ伏せ、激痛がハジメを襲った。

 しかし、智早によって慣らされたそこは、しつこい抜き差しに快感を感じ始めていた

 指が出入りするたびにハジメの秘部が収縮する。いつの間にか痛みは消えていた。

「ナニ?もしかして、もう麻生のお手付きだったわけ?」

 少年の指は段々と速度を増していき、ハジメは堪えきれない声をあげた。

「なんだ・・・あいつが犯る前にいただこうと思ったに。・・・悔しいな」

 それでも少年の指は止まらない。本数が増えても、ハジメの躯はもう拒むことは無かった。

 自分の躯が恨めしい。以前ならこんな扱いを受けることなど無かったのに。

 涙でぼやけた瞳で目の前の少年を見たハジメは、少年の瞳が嬉々として輝いているのに気がついた。

 その時何を思ったのか、それが智早の顔とダブった。正確に言えば、智早を思い出させたのだ。

 智早はハジメがどんなに嫌がっても、否応無くハジメを蹂躙した。

 だけど・・・。

 ハジメが涙を流せば優しく拭き取ってくれた。いつでも、どんな悪態をついていても最期には優しかった。

 いつの間にか指は抜かれていた。

 少年はハジメの脚を抱え込むと、自分の昂ぶったものをハジメの双丘の奥にあてがう。

 貫かれる感覚を思い出し、ハジメは躯を竦めた。段々と圧迫感が増してくる。

「や・・・っ。・・・けて・・っ」

 圧迫感が増すたびに躯の震えが大きくなった。

 少年が何か言っているが頭に入ってこない。ハジメの頭はもう一つの・・・一人のことでいっぱいだったのだ。

「センパ・・・麻生先輩・・たすけてっ。いやだぁ・・・っ」

 何故そこで智早に助けを求めたのか。

 理由は解かっていた。

 嫌だと思った。智早はどうだっただろう、と思い浮かべただけで目の前にいる少年に嫌悪感が増した。

 散々刺激されて屹立していたハジメの下肢は、いつの間にか萎えていた。

 少年がわずかに侵入しかかったその時、突然教室の扉が勢いよく開かれる音が響いた。

 ハジメが入口を見遣るよりも速く、ハジメに覆い被さるようにしていた少年が退かれていた。

 最期にハジメが見たものは、智早の泣きそうな瞳だった。






 辺りは静かだった。

 それもそのはずである。今は授業中なのだ。

 本当ならハジメも授業に参加しているはずだったのだが・・・。

「ハジメちゃん・・・ごめんね・・」

 静かな空間の中、ハジメのすすり泣く声がやっと止んだ頃、智早はハジメを抱きしめたまま項垂れて謝った。

 智早はハジメの後姿を見送った後、少し遅れて後を追った。しかし、途中で見たものは、ハジメが持っていくはずだった問題集。きっと、今も散らかっているのだろう。

 智早は焦った。

 ハジメが途中で投げ出すということは絶対無い。探すといってもあては無い。

 途方に暮れていると、階下からなにやら物音がすることに気付いた智早は、不審に思い駆けつけたのだ。すると、中からハジメの声が聞こえるではないか。

――麻生先輩、たすけて・・・っ

 明らかに涙声だった。

 あの声を聴いた後、反射的に扉を開けていた。あの時ほど人を憎いと思ったことは無かっただろう。

 涙を流すばかりのハジメを宥めながらハジメの身なりを正し、ハジメちゃん・・・と声を掛けるとハジメの方から智早に縋りついた。

 事態が事態なだけに、安心して人恋しいのかもしれない、とどこか漠然と思っていた。普段なら勘違いしてしまいそうだ。

「・・・誰の所為だと・・思ってるんですか・・・」

「ごめん・・・」

 全てハジメを襲った男たちから聞き出していた。

 智早に覚えはなかったが、両者とも智早に恋人を寝取られたのだという。

 ハジメは智早の胸に縋りながら、呟くようにして言った。

「キライだ・・・」

 智早からハジメの表情は見えない。

「あんたなんか・・・大嫌いだ・・・」

 ハジメは掴んだ智早の学ランを強く握り締めた。

 伏せたその睫毛は震えており、頬は僅かに紅潮していた。

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