#10

 乱暴に連れて行かれたのは、使われていない教室だった。

 雰囲気がこの間の時と似ていて少しだけ怯えていたハジメを、智早は性急に床へと押し倒す。

 ハジメの脚を割り、制服をボタンが飛ぶほどに荒々しく開け、愛撫とは言えない程に強く刺激を与えていった。

 執拗に口腔を弄り、胸の突起を痛いくらいにつねり・・・。

 今まで呻きながら罵声を放っていたハジメだったが、痛かったはずの感覚が段々と快感に変わってくると、喘ぎ声を我慢しようとして声を飲み込むことしか出来なくなってしまった。

「好きなんだよっ」

 智早は始終、同じことを何度も繰り返して言った。

 ハジメはそんな智早の視線を避けた。智早の目を見たら何か口走ってしまいそうで・・・。

 ハジメは涙を浮かべることしか出来なかった。

 いつも智早を睨んでいたハジメが目さえ合わせない事に苛つき、智早はハジメの学ランに付いていたネームプレートを外してピンの部分を真っ直ぐに伸ばした。

 目をきつく閉じていたハジメには智早が何をしているのか解からなかったが、右の耳朶を舌で丹念に舐められて震える躯を襲った痛みに驚愕し、ハジメは目を大きく見開いた。

 あまりの痛みにハジメは止めさせようと智早の腕を払おうとしたが、智早のピンを持っていない方の腕で押さえ込まれて躯を捩っても意味がなかった。

「痛・・・っ。いたいっ。・・・いたいよぉ・・・っ」

 最期には子供のように泣きじゃくるハジメを愛しいと思ったが、深く入れたピンを躊躇なく引き抜いた。

 感覚が麻痺してしまったのか、ハジメは泣き続けるだけで大人しかった。

 智早は、用済みになったピンを床に転がすと、自分の耳からピアスを一つ取ってハジメの耳に近づける。それを見たハジメは、押さえをとかれていた腕を振り回した、

「や・・・っ。付けないでっ。そんなの付けないで下さ・・・っ。やぁ・・・っ」

 智早は無言で付ける。ピアスを上から舌で舐めあげ、ピアスの止め具の先から延びている部分を曲げて取れなくすると、そのままハジメの耳許で囁いた。

「お前は絶対に、誰にも渡さなねェ・・・」

 ハジメの躯の中に入れたままだった自身を緩く動かすと、わずかに呻いたハジメの瞼に口唇を落とす。

 痛みに萎えているハジメのものを手に取った智早は、腰を突き上げるリズムと同じに上下に擦りあげるように動かした。

 快感に歪むハジメの顔を見ながら智早は思う。

 何故こんなに上手くいかないのか・・・。

 いつだってやりたいことをしてきたし、大抵のことは上手くいった。なのに、こんなにも思ったようにならないなんて。

「やぁ・・・っ。んぅー・・っ」

 泣きながら喘ぐハジメは言いようが無いほどに智早の欲望を直撃する。

 喘ぎ声を何とか抑えようと努力しているのは解かっていたが、そんなことを考えさせないほどに追い上げる。そして、しばらくして気付くのか、ハジメは再び口唇を必死に押さえるのだ。

 その仕草はハジメらしいが思わず笑ってしまう。――だが、そのことにハジメは気付いていない。

「なぁ・・・。早く俺を好きになれよ・・・」

 何度も口にする言葉。しかし叶えられた事は無い。

 それでも智早は何度だって口にする。

 それでハジメが自分を振り向いてくれるのならば、そんなことなど気にならない。

 案の定、今回も返事を得られなかった。

 与えられる激しい快楽に意識がはっきりしていないのだろう。智早が言葉を発していることさえ気付いていない。

 しかし、それでも智早は何度もその言葉を繰り返した。






  ハジメの中で果てた智早は、そのままハジメの躯の上で荒い呼吸を整えた後ハジメの上から退いた。

「・・・ごめん・・」

 流石に顔を向けられず、智早は素早く身支度をするとハジメの躯を起こし、視線を外してハジメの乱れた衣服を直す。

「・・・これがあなたの言う『好き』ですか?」

 ハジメの目は虚ろで、躯はピクリとも動かない。

 智早が答えられないでいると、ズボンを履かせていた智早の腕を払い除けた。

「そんな愛は・・・いらない」

 好きな相手にオモチャのような扱いをされては耐えられない。

 智早は払われた掌を見詰めて、もう片方の手で痛む胸を押さえる。

「好きなんだ・・・。本気で好きなんだ・・・」

 小さく呟いた智早の声は、かろうじてハジメの耳許まで聞こえた。

「他にもいるくせに・・・」

 無意識に口に出してしまった言葉が嫉妬を帯びていることにハッとし、目尻をうっすらと紅くして誤魔化すようにハジメは立ち上がった。

 出口へと向かっていくハジメに、智早は縋るように腕を掴んだ。

「ホンキの奴はいないっ」

「いい加減に・・・っ」

 非常識な言い草にカッとなり、ハジメは掴れていない腕を振り上げたが智早の頬に当たる前に捕われてしまった。

「どうしたらホンキだって伝わるんだよっ!!」

 強引に引き寄せられ、智早の胸にすっぽりと収まる。しかし、強く抱きしめる智早の力は段々弱くなっていった。

「なぁ・・・。何で信じねェの?俺ってそんなに信用ねェ・・?」

 智早らしくない弱々しい声で囁かれ、緩い抱擁の中でハジメは力なく躯を預けていた。

 頭の隅でハジメは思う。最近、智早のこういう声を聴くことが多い。

 ハジメは黙ったまま、ただ智早の声を聞いていた。

「・・・どうしたら信じてくれる?」

 強姦まがいなことをした男と何をしているんだ、とハジメは頭の隅で漠然と思っていた。

 頬をくすぐる智早の長い髪の毛がくすぐったい。抱き込まれたままの体勢では智早の表情を見ることは叶わないが、智早の躯から聞こえる少しだけ速い心臓の鼓動に安堵の笑みを浮かべていた。

 長い間、智早の腕の中にいた。

 ハジメは何も話さなかった。そして、智早も・・・。

 しかし、いつまでもここでこうしているわけにもいかない。

「・・・貴方は・・あまりにも不見識すぎる。」

 ハジメが初めに感じていたのはこれだった。智早は常識がなっていないと思う。いつもからかうように人を見て、あまつさえ強引に・・・。

「じゃあ・・・、俺がハジメちゃんみたく真面目になったら・・・俺を、受け入れてくれる?」

 別に自分が真面目だと感じたことは一度としてなかったが、否定はしなかった。智早からみたら大真面目だろうから。

「・・・それとこれとは話が別です」

 ハジメは今度こそ智早の腕を振り払うと、教室の出口へ向かった。

 慌てて智早が追いかけてその腕を取ろうとしたが、今度は捕まえられずスルリと腕の中をすり抜けた。

「・・・もう僕には構わないでください」

 はっきりとした声だった。智早の位置からでは後姿しか見えないので、ハジメが涙を流していたことなど智早はに全く知らないことだった。






 時計の針が2周はした頃、鞄を2個抱えた生田が教室の扉を開けた。

「探したんだぜ。こんな所で何してんだよ」

 智早は床に座ったまま、何も答えない。

 ハジメが出て行った後も、智早はずっと同じ格好で座っていた。

「おい?」

 生田が訝しげに智早を窺ったが、智早はピクリとも動かない。

「・・・嫌われた・・」

 虚ろな目で呟く智早に、生田は呆れた顔をする。

「またか?」

「完璧に嫌われた。もう構うな・・・だって」

 顔をうつ伏せたままの智早に、生田は明後日の方向を見て頭を掻いた。

「・・・何しでかしたんだよ」

 ま、想像はつくけど・・・、と続けた生田に、智早は泣き笑うような表情で生田を見上げる。

「・・・愛の押し売り」

 ヘヘヘ・・・、と薄ら笑いを浮かべた智早は、深く溜息を吐くと床に崩れるように転がった。

「あ――・・・。もう、俺死ぬかも」

 確かに声だけ聞いていると死にそうだ、と思った生田は智早を鞄で殴ると小さな声で呟いた。

「あほ」

 これでも生田なりに慰めているのだ。

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