#2
翌日、また智早が教室の窓を開けた。 「先輩・・・」 そのハジメの声はすっかり呆れきっている。 今日も智早は、授業中にも関わらず窓を開けてきた。 「ハジメちゃん、帰ろうぜvv」 「・・・・・・今日も生徒議会です」 授業が続いている中、相変らずな智早にハジメは小声でボソっといった。 いつもならここで笑顔が崩れるのだが、ハジメの言葉に予想がついていたのか智早は先に行ってるね、と言い残すと廊下の向こうへスキップで歩いていった。 その後姿を言葉なく見詰めるハジメ。 どうしても昨日のことが頭から離れない。 あの場では納得してみせたがやはり・・・。 智早が他の人間と口唇を合わせているところを見た瞬間、ハジメの躯に恐怖が走った。 耐えがたい恐怖が・・・。 生徒会室に入ってきた瞬間、智早は溜息をついた。 「はぁ?何で」 一応聞き返してみたものの、珍しく休みの会長のおかげでヒマを持て余していた生田は、智早の鬱陶しげな溜息を聞いて今までのヒマな時間を取り戻したい気に駆けられた。 「・・・この間さぁ・・」 智早は時折溜息を吐きながらそのことを話した。 あの時、ハジメが納得していないことに智早は気がついていた。しかし、何もいえなかったのである、 先程ハジメに声を掛けたときなど心臓がバクバクするほど緊張していたのだ。 もしかしたらまだ怒っているかも。もしかしたら嫌われてしまったかも、と思いながらハジメの教室の窓を開けたのだ。 「・・・お前、バカだろ」 話を聞いた生田の第一声はそれだった。 「・・・るせェよ。まさかハジメちゃんが見てるとは思わなかったんだ」 「・・・見てなかったらいいわけ?」 智早は何も言わなかった。生田と目が合うと不自然に背ける。 それは図星・・・ということなのだろう。 「・・・ふーん・・」 生田は意味深に呟きながら智早に近付いていく。 それに気付いた智早は軽く睨んだ。 「・・・何だよ」 しかし、智早が睨んでいるにも関わらず、生田は構わず智早に歩み寄っていった。 「今、二人しかいないぜ?坂遠が見てなきゃいいんだろ?」 智早は何を言っているのか解からなかった。 考えているうちにどんどん生田の顔が近くなっていく。 そしてその口唇が智早のそれに触れた。 深くなっていく口付けに、智早は、まぁいいかという気になり、自分から口唇を深く重ねた。 ―――カタンっ ハッとして躯を離す。 振り向いたその先には・・・。 「ハジメちゃん・・・っ」 気がついたときにはハジメは既に走り出していた。 何も考えられなかった。いや、何も考えられなかったんだ。 その時ドンっと何かにぶつかる。 「あ、ごめんなさ・・・っ」 目の前に人の脚が見えたハジメは、勢いよく顔をあげた。 そして、そこに見たことのある顔をみて驚愕に目を見開いた。 「あれ・・・。お前・・・」 相手も気付いたのか、ハジメを見ると驚いた顔をした。 しかし、次の瞬間には口許を吊り上げて笑った。 「・・・元気そうだね」 ハジメの躯が震える。 男とは一度しか会ったことがない。それも出会い頭に強姦されそうになったのだ。 二人いたうちの体格の小柄な方の男だった。 あの時は智早が助けてくれたから最期まではいたらなかったが・・・。 「一人歩きなんかしたら・・・危ないんじゃないの?」 男がハジメに向かって一歩前へ出た。それと同時に一歩下がったハジメだったが、力の入らない脚は無残にもその場に崩れ落ちた。 男の躯が段々近付いていくというのにハジメの躯は動こうとしない。 ただ、震えるだけ・・・。 「この間の続きでも・・・する?」 襲われた時の映像がつい昨日のように頭に流れた。 二人がかりで押さえ込まれ、力いっぱい抵抗を繰り返したハジメだったがなす術もなかった。 あの日から、色々なことがありすぎて今まで忘れていた。 男の手がハジメの頬に掛かる。 俯けていた顔を上げると、そこにはしゃがんだ男の顔が有り視線がぶつかってしまった。 「・・・っ」 口をあけたが声が出ない。 腕を突っぱねて抵抗するのだが、震えた腕では抵抗にもならなかった。 それでなくとも、ハジメの力では敵わなかっただろうが・・・。 「ずっと・・・思ってだんだ。お前を抱いたらどんな感じなのかな・・って、さ」 両腕をとられて片手で簡単に押さえられてしまった。 腕を動かすたびに地面擦れる。それでもハジメはもがき続けた。 「この間は麻生に邪魔されただろ?・・・今度こそ犯ってやるよ」 男の空いてる手が撫でるようにハジメの頬から首筋へと移動した。 視線をそらすこともままならないハジメの目は、男の笑った口許が近付いてくるのをジッと見詰めていた。 いや、映っていなかったかもしれない。 ハジメは男の息を首筋に感じたと同時にそこに小さな痛みを感じた。 「や・・・ぁ・・・」 か細く喘ぐことしか出来なかった。 ―――助けてっ。麻生先輩・・・っ 智早に助けを求める言葉も声にはならなかった。 それでもハジメは智早の名前を呼びつづけた。 何度も智早を呼びながら目を瞑っていたハジメだったが、不意に躯の上が軽くなりゆっくり開けた目に男が殴られる光景を目にする。 それは以前にも見たことがある光景で、起き上がったハジメはそれをジッと眺めていた。 次第に自分でも心が沈んでいくのが手に取るように解かっていた。 ハジメの目尻に溜まる涙に気付いて覗き込むような影が見えたが、それでもハジメは顔を上げなかった。 「大丈夫だった?」 何故なら、目の前にいる人物は―――智早では、なかったから・・・。 |
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