好きになった理由
#2
家に帰った松野は、自室に入った瞬間眉を顰めた。 「・・・また来たの?」
心底嫌そうにいった松野は、その表情を隠そうともせず溜息をついた。
「なんだよー。別にいいだろー?」
ベッドに寝転がってそこらへんにあった雑誌を勝手に手にしているのは松野の従兄弟の暁生だ。
一個上の暁生はヒマになると松野の家にきては何もしないで帰っていく。
「・・・もう帰れよ」
今日も何回目になるか解からない告白を無下にかわされたのだ。
そんな日に暁生の相手はしていられなかった。
だいたい今年大学受験だというのにこんなに暢気でいいのだろうか。
「孝治くーん・・・。そんなこと言っていいのかなー?」
暁生の手に見えるのは松野の見慣れた写真立てだった。
舌打ちをした松野は素早くそれを奪い返すと暁生を睨みつけた。
ニヤニヤと笑う暁生に、睨み付けるのは効果がないと思った松野は視線をそらすと写真立てを元にあったところに置いた。
「まだ好きなのか?」
暁生の顔は未だ笑っているのだろう。
「健気だねェ、お前も」
段々腹が立ってきた松野は、まだ何か言っている暁生を無視することに決める。
写真立てを覗き込むと、そこには先ほどまで一緒にいた冷たい顔が映っていた。
生田は松野の顔を見るとこういう顔しかしてくれない。
それでもいいのだ。
それでも、絶対に振り向かせてみせる。
あの日、そう決めたのだ。
翌日、松野は懲りずに生徒会室へ訪れていた。最近生徒会長が遅いおたふく風邪にかかったらしく、生田がその代わりをつとめている所為で生田は忙しいらしい。
その所為か、今生徒会室には生田はいない。おおかた職員室にでも行っているのだろう。
松野は生田を待つ間、椅子に座って並んで座っている智早とハジメを眺めていることにした。
ハジメとは目があうと挨拶くらいはする仲だったが、智早とはやはり折り合いがよくない。
別にハジメを取ろうとしているわけでもないのに、松野がハジメに近付くと智早はあからさまに嫌そうな顔をする。
きっと一度でもハジメの口唇を奪ったことを根に持っているのだろう、と松野は考えていた。
なんて心の狭い奴なんだ、と思った松野だったが、反対に智早が生田とそういうことをした・・・とハジメから聞いたときには殴りたいくらい頭にきていたのだ。
松野も人のことは言えなかった。
しかし、何故か今日の智早の態度がおかしい。
松野が生徒会室に入った瞬間から、やたらと愛想がよすぎる。
「・・・気持ち悪いな・・。何か用?」
智早の近くには行きたくないが1人だけ離れているのも寂しいのでハジメの向かいに座った松野は、斜め前からの視線が気になって仕方がなかった。
「・・・別に?」
そう言った智早だが、顔は笑っていた。
・・・おかしい。
「言いたいことがあるならはっきりと言ったら?」
苛ついてきた松野は目尻を吊り上げて智早を睨みつける。
はっきりいって松野は智早が嫌いだった。
小さい頃からの仲だからといって、生田は智早に随分甘い。
二人がいかがわしい行為をしていたのも知っている。
「お前さぁ、透司のことが好きなんだって?」
笑いを含んでいった智早に、思わず眉を顰めた。
何で知ってるんだ?、と思った瞬間、松野はハジメに視線を向けた。
ハジメは懸命に電卓を打っていたが、話を聞いていたのか少しだけ口許が引き攣っていた。
きっと口止めをしつつ智早に話したのだろう。
しかし、智早に口止めなど意味もない。
「・・・だったら?」
このままハジメを責めるのも可哀相なので、仕方なく肯定することにした。
松野なりにハジメのことは気にいっているのだ。
「協力してやるよ」
その言葉を聞いた瞬間松野の頭にハテナが浮かんだ。
それもそのはずである。
あんなに松野を嫌っていたのに、今では目の前で笑顔を振り撒いている。
「・・・別にいい」
何を企んでいるのか解からないので、とりあえず松野は遠慮しておくことにした。
「えー? なんだよ。俺が協力してやるっつってんだぜ?」
顔を顰めて言う智早に、松野は口許を引き攣らせた。
なんて偉そうに言うんだ、コイツは。
「・・・いいよ、別に。お前なんか必要じゃない」
松野のこの言葉には智早もピキッと来たようだった。
あきらかに目元がヒクヒクとしている。
しかし、智早の意図が解からないのだ。このまま受けて後悔するよりはずっといいだろう。
そのとき、ハジメが二人を見遣って困っていることに気がついた。
どっちの味方もできずにいるのだろう。
「・・・麻生はなんで協力しようなんて思ったわけ?」
ハジメが泣きそうだったので、松野は仕方がなく話をふることにした。
しっかり顔はそっぽを向かせて。
それを聞いた智早は、単純にも笑顔になった。
「だってさぁ、お前と透司がくっつけばお前がハジメちゃんに手ェだす心配もなくなるだろ?」
ニコニコと笑って言う智早に、松野は呆れた視線を向けた。
なんだって智早は、松野が生田を好きだと聞いてもハジメに手を出す、と思っているのかが解からない。
「それにさ、透司のあの態度は絶対に脈アリだと思うんだよなぁ」
コイツの言葉はイマイチ信用できない気がする・・・。
ホントかよ・・・と思いながらも嬉しく思ってしまった自分に、単純だ、と沈んでしまった。
その時、不意に生徒会室の扉が開いた。
「お前らいつの間に『仲良し』になったんだよ」
生田は眉を顰めて二人を見ていた。
声は聞こえていないみたいだったが、話していた雰囲気は読み取れたらしい。
「・・・別に仲良くなんてなってない」
松野と智早の声が合わさった。
意思の疎通ができたのも、これが最初で最期だろう。
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