好きになった理由
#3
家に帰った松野は、そこにいる人物を見て眉を顰めた。 「・・・また来たの?」 嫌がられているのが解かっているくせに暁生は懲りずに何度も来る。 「いいだろぉー? そんな邪険にすんなよー」 ニヤニヤと笑いながら松野を眺める暁生に、松野はますます眉間に皺をよせるがもう何も言わなかった。 暁生に何を言っても同じだ。 「なぁ、ひとつ気になることがあるんだけどさぁ」 上目遣い気味に松野を見あげてくる暁生に、松野は、何だよ、というように視線を向けた。 いつの間に取ったのか、暁生は生田の写真を持ってニヤニヤと笑っていった。 「写真のコイツとお前、エッチの時どっちがどっちなんだ?」 瞬間に頬が真っ赤に染まったのが自分でも解かってしまった。 きっとその反応さえ面白がられているのだろうが、自分の意志で止まるものでもなく・・・。 「そ、そんなの・・・っ!! 透司はいつもタチばっかりだし・・・っ!!」 言ってからハッと気付く。何故こんなことを暁生に話しているのか? 「あ、暁生には関係ないんだからほっとけよっ!!」 暁生をキッと睨みつけた松野だったが、未だ紅いままの頬の所為でその効果は薄れている。 仕方がないのだ。何の免疫もないのだから。 今まで恋といった恋はしなかった。 望みの高校だって、入った瞬間に生田に惚れてしまったのだ。 ふーん・・・と呟く声が聞こえて振り返った松野は、そこに値踏みをするような暁生の視線に目元を引き攣らせた。 「な、何・・・」 「――でも、お前も見ようによっては可愛いかもな」 自分よりも小柄な暁生に可愛いなどと言って貰いたくはなかった。 しかし、問題はそこかもしれない。 松野は生田のそういう相手の対象になるのだろうか・・・? 身長にして言えば、多少松野の方が小さいが生田と松野はそれほど変わらないのだ。 気になってはいたものの、はっきりと言われたことがないので守備外ではないのかもしれない、と松野は思うようにしている。 「性格とかもさぁ、こんなナリしてんのに全然ウブだしさぁ」 ビクリと躯が揺れた。 「やめ・・・っ」 いつの間にか背後に立っていた暁生にズボンの上から股間を撫で擦られたのだ。 腕を払い落とすまでもなく素早く離れていったそれに、松野は憤りを隠せずに暁生を睨みつける。 ―――が。 「な?」 口唇の端を吊り上げて笑う暁生に、松野は口唇を噛む。 紅潮した頬を指摘されたのだ。 紅くなったままで、うー・・・と唸る松野に暁生の笑みはますます深くなっていく。 「・・・けど、孝治が抱かれてもいい・・・って思うほどの男なんだ?」 松野から離れた暁生はもと居たソファに身を据えると写真立てをマジマジと眺めていた。 暁生の言葉に頭を傾げた松野だったが、次の言葉に躯が止まった。 「・・・俺も抱かれてみたいなー・・・なんて、ね」 目を細めて言う暁生に、溜息を吐いて目をそらした。 暁生がこんなことを言い出すのは生田が初めてではなかった。 ある時にはブラウン管の中の芸能人に。ある時には近所のお兄さんに。 ただ、松野の知り合いを持ち出すことはなかったが。 いつも暁生のこと言葉が実現されることがなかったことを知っている松野は、このあと起きる事など全く考えるよしもなかった。 「暁生!?」 考えもしない所で暁生と会った松野は慌てて暁生に走りよった。 何故他校生の暁生が校舎の中にいるのか。 「何で・・・」 呆然として暁生を見ている松野に、暁生は微笑を浮かべると鞄の中を探り出した。 探してたんだよ〜と言いながら松野が取り出した物は・・・。 「んー? コレ、お前の忘れ物。今日使うんだろ?」 暁生が持っているのは40センチくらいの袋。中には体操着が入っているはずだ。 「・・・使わないけど」 別に今日は体育のある日ではなかった。 「あれ? 使わないの? 机の上に乗ってたから、てっきり今日使うもんだと思ったんだけどなぁ・・・」 確かに机に乗せてあった。しかし、だからといって普通届けにくるだろうか・・・? 「あ・・・と。わざわざゴメン。ありがとう・・・」 それでも自分の為に届けに来てくれたのである。 きっと暇な時に見つけてしまったのだろう、と思うことにした。 「・・・で?」 「・・・は?」 声を潜めるように顔を寄せて話す暁生に、松野は間の抜けた声を出す。 「バカ。あれだよ。愛しの透司くんは何処だよ」 一瞬何を言われたのか解からなかった。 だいたい暁生と生田は何の関わりもないのだから。 「何処・・・て・・」 今の時間なら生徒会室にいるんじゃないか・・・? 「オッケ。生徒会室、ね」 後ろ向きに手を振りながら応える暁生に不安を覚えた松野はその後を追おうとしたのだが、その瞬間にクラスメートに呼び止められて仕方なく教室へ戻っていった。 きっと大丈夫だ。何もあるはずがない。 だいたい生徒会室にはハジメや智早だっているんだから。 暁生を追うのを諦めて、松野は教室へ入っていく。 その光景を無表情で見詰める視線があった。 一部始終を遠くで生田が見ていたことは、松野の知らないことだった。 |
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