好きになった理由

#4

 STも終わって、生徒会室へ向かっていた松野は途中で智早と出くわした。

 智早も松野に気付いたらしく、目が合ったが直ぐにそらされる。

「・・・珍しいね。お前が坂遠と一緒じゃないなんて」

 行くところは同じなので、仕方なく横を並ぶ。

「・・・ほしゅー・・・・・・」

 心底嫌そうに呟く智早に、松野はフンと鼻で笑うように智早を見た。

「普段から真面目に授業を受けていないからだ。バカめ」

 流石にムッとしたようだった智早だが、補習で力を使い果たしたのか反論してきたりはしなかった。

 少しだけ詰まらないな・・・などと思ってしまったが、それはなかったことにしよう。

 生徒会室の前に立ち、その扉に手をかけた。

「――っ!!」

 開けた瞬間、目を見開いて硬直する。

 止まってしまった松野に、変に思った智早も中を覗き込んだ瞬間息を呑んだ。

 最初に映ったのはオロオロとしているハジメ。

 松野を見た瞬間、泣きそうな顔になったのは見間違いでは決してないだろう。

 そして、次に見たものは・・・。

「な・・・し・・て・・・」

 上手く言葉が出てこない。

 今、目の前には生田が居た。

 しかし、いるのは生田だけではない。

 その膝の上に乗っている暁生を覗き込むようにして顔をかぶせていた。

 ふと生田がこちらを見た気がした。

 その隙に二人の口唇が深く触れ合っているのがしっかり見えてしまう。

「・・・透司、いい加減にしておけよ」

 固まったまま動かない松野をすり抜けて生徒会室に入った智早は、頭を掻きながら生田に声をかける。

 その声でハッと我に返った松野は、口唇を噛み締めると一直線に生田へと脚を向けた。

「松野さん・・・っ」

 ハジメの制止する声が聞こえたが、そんなのは関係なかった。

 未だに生田の上を陣取っている暁生を力任せに退かした松野は、生田を真正面から睨みつけた。

 怖いな、もう〜・・・、と暁生が呟くが、もう松野には周りの声は聞こえていない。

「・・・何だよ」

 松野の視線から目をそらすことはしなかった。

 そんな生田が余計に憎くなってくる。

 少しくらい恨みがましくなってしまうのは仕方がないだろう。

「・・・俺にはキスもしてくれないくせに」

「・・・してるだろ?」

「俺が勝手にしてるだけじゃんっ!!」

 近寄るのもいつも松野からだった。

 奪うようなキスだって生田は嫌がるばかりなのに。

「・・・知ってる? コイツ、俺の従兄弟なんだよ?」

 握った拳に力が入る。

 いつの間にか顔は伏せていた。

 ・・・生田を正視できない。

「知ってたさ」

 口唇を噛み締めた松野は、滲む視界の中、なんとか扉を探り当てると静かに生徒会室をあとにした。

 一度も生田を見ることは・・・なかった。

 パタンと言う音がやけに大きく響く。

 しばらく沈黙が続くがそれも長くはもたなかった。

「なんでこんなことするんですか!?」

 ハジメが詰め寄るように生田を見遣る。

 生田は扉に視線を合わせたままで口を開けた。

「・・・俺は『こんなこと』をする男な・・」

「違いますっ!!」

 生田の言葉を遮ったハジメの目には涙が溜まっていた。

「・・・何で・・・何で松野さんに見せつけるようなことをするんですか・・・」

 沈んだその声に、生田は何も言わなかった。

 ・・・言えないのかもしれない。

「・・・違うよハジメちゃん。コイツは本当に見せ付けてるんだ。アイツ、松野に・・・」

 え?、とハジメが顔を上げると、智早はしかめっ面で生田を見詰めていた。

「・・・だろ?」

「・・・・・・」

 扉から目を離した生田は、無言で智早を見ようともしない。

 そんな生田に焦れたのか、智早は少しだけ声を大きくした。

「けど、そんなことして何になるんだよ・・・っ」

 それでも生田は何も言わない。

「・・・付き合う気がないなら・・はっきりと振ってやれよ」

 そのとき微かに生田の手が動いた。

 ほんの少しの動きだったが、僅かに力が入ったらしい拳はきつく握られている。

 そのまましばらく時間が流れた。

「・・・くそ・・っ!!」

 生田は突然舌打ちをすると強く机を叩き、たちあがって生徒会室を横切っていく。

 松野のことになるといつもこうだった。

 無関心を通して松野を傷付け、そのくせその反応に苛立つ。

 ―――悪循環だ。

 扉を開け放ち、長い廊下を走る。

 その先に、松野の後姿を見つけた・・・。






 背後から突然肩を掴れた松野は、驚いて後ろを振り返った。

 その目は今にも泣きそうで、生田の口許を歪ませる。

「え・・・? 透司・・?」

 思っても見ない生田の出現に、松野は驚愕のあまり指をさしてしまう。

 まさか生田が追ってくるとは思いもしなかったのだ。

「・・・あるのか?」

 肩で息をしている生田に何か言われたが、最初の方は何を言っているのか上手く聞き取ることが出来なかった。

「・・・え・・?」

 追いかけてもらえて嬉しいはずなのに、あまりのことに戸惑いの方が大きい。

 松野は当惑の眼差しで生田を見詰めた。

「だから・・・。お前、俺に抱かれる気はあるのか?」

 何を言われているのか解からなかった。

 抱かれる、という意味くらいは解かっているつもりだ。

 しかし、何故ここで生田が・・・?

「・・・俺は、抱かれる気なんか無いぞ」

 未だ掴れたままの肩から生田の体温が伝わってくる。

 脈絡もない生田の言葉に、どういえばいいのか解からない。

 ・・・解からないのに。

「・・・抱かれることくらい、できる」

 気がついたら答えていた。

 しばらくそのままで視線を絡ませていた。

 いや、生田が松野を見詰めていたのだ。

 それを松野が見詰め返す。

 結局は見詰め合っていたのだった。

「・・・いいぜ。来いよ」

 不意に口を開けた生田に、松野はハッと我に返り引き摺られるようにして歩き出した。

 いつの間にか手を引かれていることに気付き頬を染める松野だったが、いったい何処へ連れて行く気なのかと生田の後姿を見詰める。

 今までとは違う様子の生田に、松野は握られた手に力を込めた。

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