#14

 玄関に座り込み靴を履きながら、新田は亮平に明日の講義のことをなどを話すために振り返った。

 その視線の先にある階段に、篤志が降りてきていることに気がつくと、間にいた亮平も新田の視線に目を向けた。

 階段を降りてきた篤志の背中にはしっかり鞄がかけられており、今からどこかに行く所なのだろう。

「どっか行くのか?」

 何気なく聞いたそ新田の言葉に、篤志は小さく頷いた。

「・・・何処へ行くんだ?」

 睨み付けるような勢いの亮平に、新田は「この男は・・・」は頭を掻き毟る。

 篤志がいつも怯えたような目をするのは亮平のこの冷たい目がそうさせるのだ。

「・・・友達の・・・家・・・」

 視線を合わそうとしない篤志に亮平は苛々とますます眉間に皺を寄せる。

 そしてきっとそういう関係の友達なのだろうと邪推をするのだ。

「・・・早く帰って来いよ」

 行くな・・・とは言えなかった。言ってどうなるものでもない。

「え・・・っと・・・。今日は泊まって来たいんだけど・・・」

 ちらりと亮平を見た篤志は、そこに眉間に皺を寄せて自分を睨みつけている亮平を見つけてしまった。

 慌てて目をそらした篤志は亮平の視線を避けるように顔を俯ける。

 篤志は知らない。そのとき亮平が口唇を噛み締めていたことを。

「だ、駄目なら・・・いいや」

 つい昨日も外泊したあげく、連絡もしなかったのだ。

 外泊を咎められても仕方がないと思った。

「・・・別に。勝手にすればいいだろう」

 プイッと違う方向を見る亮平に新田は笑いを隠し切れずにいた。

 拗ねているのかいじけているのか・・・。いくら篤志が外泊するからといって、そこまで意固地にならなくてもいいだろう・・・と。

「おいおい・・・。そういう言い方は・・・」

 笑いを含んだその言葉は最後まで続かなかった。

 途中で遮るように篤志が言葉を重ねたのだ。

「・・・っ。いってきます・・・っ」

 逃げるように出て行く篤志を見送りつつ、新田は亮平に話し掛ける。

 亮平も激しい音を立ててしまった扉を見送っていた。

「おい〜。何とんがってんだよ。今の、絶対に誤解してるぜ?」

「・・・何が誤解なんだよ」

「だからぁ。お前が篤志のことなんかどうでもいい・・・って言ってるように聞こえるっつーことだよ」

 溜息を吐く新田に、自分こそが溜息を吐きたいと思う亮平。

「ったくさぁ・・・。そんなんじゃ、篤志に愛想つかされちゃうぜ?」

 別れたいって言われたらどうすんだよ?、と笑いながら言う新田。しかし実際そんなことはありえないと思っていた。何せ篤志は亮平にベタぼれだ。・・・亮平もだったが。

「・・・何を言ってるんだ?」

 気がついたように視線を向けた新田は、そこに怪訝そうな顔をしている亮平をみつけて「何が?」と目で問い掛ける。

「別れたいって何だよ。別れるも何も・・・俺たちはそんな関係じゃない」

「はあ?」

「だいたい・・・愛想つかされるって・・・もうつかされてるんじゃないのか?」

 ポカンとしている新田を見た亮平は、それが何だか馬鹿にされているようで腹を立て、新田を見送ることもせずにリビングに入っていった。

 残された新田はというと・・・。

「お、おい? ちょっと待てって!!どういうことだよそれ!!」

 追ってきた新田を睨みつけながら亮平はもといたソファに腰を落とした。

 どういうことも何も・・・そういうことだ。例え亮平がそういう関係を望んだとしても・・・どうしようもならないことなのだ。

「お前らまだくっついてなかったのかよ!?」

 病院から戻ってきた二人は穏やかだった。

 その日からずっと会っていなかった新田は知らなかったのだ。最近の二人の様子を・・・。

 決定打のように言われ、亮平は苛々と側にあったクッションを投げつけた。

 ・・・そんなの、出来たらそうしてたよ。

 篤志には他に好きな人間がいる。それは男なのかも女なのかも解からない。

 しかし、関係を結んでいる人がいるのは確信していた。






 行為が終わった後も、二人していまだにベッドの中でまどろんでいた。

 あの後、瑞生の家に来た篤志は家に入った瞬間に瑞生に抱きつき・・・。

 結局玄関で一回目を致してしまったのだ。といっても二人でじゃれる程度で最後まではいかないのだが。

「学校は楽しい?」

 頭の近くで聞こえる穏やかな声に、篤志は背を向けていた躯を瑞生の方へと向かせた。

 ジャケットの下に制服であるカッターシャツを着たままだったからだろう、その言葉に、まるで保護者みたいな問いかけだ・・・とムッとした表情を隠さなかった。

 その歳相応な反応に、瑞生は篤志の頭を軽く撫で、篤志はそれを鬱陶しげに振り払う。

「・・・子供扱いすんなよ」

「子供でしょ?」

 くすくすと笑いながら指を胸許へと持っていく。

 余韻の残るその部位は、未だに紅く染まっていた。

 ・・・そういえば、瑞生は何歳なんだっけ?

 篤志はゆっくりと施される愛撫を受け入れながら頭の中を探っていた。

 けれどいくら思い出そうとしても答えは出てこない。そのうち教えてもらってないような気さえしてきた。

 見たところ、篤志よりは年上のようだが、亮平とは同じくらいかそれより少し下のような感じがする。

「子供にこんなことするんだ?」

 篤志も笑いながらその指に自分の指を絡ませる。

 しばらくそうして遊んでいると、不意に言った瑞生の言葉に指がぴたりと止まった。

「・・・お兄さんとどう?」

「・・・別に。何で?」

 チラリと瑞生を覗った篤志は、心配そうに見詰める顔を見つけて罰が悪そうに視線をそらした。

 いつも瑞生には心配をかけてしまう。

「・・・何かあったんじゃないの?」

「・・・ちょっと出かけに・・」

 でもあんなのいつもと同じことだ。

「何かさ、今日の篤志はちょーっとエッチだったなぁ〜っと思って。・・・もしかして溜まってただけ?」

 笑いながら覗き込まれ、篤志は苦笑した。

 そうなのだ。いつもは全てにおいて受身の姿勢を取ってしまう篤志だったが、今日は何故か積極的に自分から動いていた。

「溜まってたって・・・この間やったばっかだろ?」

 しばらく笑っていた篤志だったが、ふと思い出したように口を開けた。

「ああ・・・。そういえば、久々に会った友達に・・・欲情・・・したかも・・・」

「へえ?」

 面白そうに篤志を見詰める瑞生に、篤志は「ちょっとだけな」と苦笑した。

「・・・抱きたくなった?」

「いや。抱かれたくなった」

 もう篤志の中で『抱く』という感情は皆無だった。

 自嘲気味に笑う篤志に瑞生はなおも優しく髪の毛を撫でる。

 瑞生の手の平の感触を目を閉じて感じていた。

「そういえば新田さんに似てたな」

「新田?」 

「兄ちゃんの友達。・・・で、俺の初めての男・・・」

「・・・ああ・・」

 顔が・・・というわけではなく、躯つきが似ていた気がする。

「どんな感じな男なの?」

「うーん・・・。結構ガタイの大きい感じで・・・」

 そのとき突然瑞生に乗られて驚く。

 頬を撫でるその手つきがいやらしいのはきっと・・・いや絶対にわざとだ。

「僕みたいな貧弱な男には・・・抱かれたくない?」

 微笑いながらの瑞生に篤志も笑う。

「貧弱?何処がだよ」

 笑いながら腹筋を撫で上げる。

 くすぐったそうにする瑞生に、篤志はその肌に顔を寄せて舐めた。

 不意に顔を上げさせられて見あげると、ゆっくりと瑞生の口唇が降りてきた。

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