#2

 目が覚めるとそこはベッドだった。

 裸のままで眠る自分に、篤志は昨日のことをぼんやりと思い出した。

 しかしあまりに目まぐるしくて、よく覚えていない。

 喉が異常に渇いていることに気付いた篤志は、ベッドから降りると水を飲みに行こうとした。だが歩き出したとたん、篤志の躯が崩れるように床に落ちた。

「・・・っ」

 痛みが躯全体を襲う。

 日頃使わない筋肉を酷使したおかげで筋肉痛にでもなったのだろう。しかし、一番堪えている場所は・・・。

 昨日の亮平はいつもと違っていた。だからだろうか・・。

 亮平が篤志を抱いた、なんて。

 今でも患部がヒリヒリと痛む。切れてはいないだろうが、なにしろ初めての体験だ。

 瑞生に何度言われても頷かなかった性の立場。

 亮平に強引に奪われたというのに、腹は立っていない。恨んでもいない。

 逆に嬉しいなんておかしいだろうか。いや、おかしくないだろう。

 それよりも想いを寄せていた亮平と一つに繋がったと思うだけで嬉しく思えてしまう。

 ・・・兄ちゃんも俺のこと・・?

 亮平ならば受け入れる立場にまわってもいい・・・とさえ思っていた。

 そういえば、と篤志は周りを見回した。

 亮平がいない。1階にいるのだろうか。

 シーツを巻きつけて扉を開けた。こういうとき、親がいないって便利だ。

 両親は篤志が高校に入学したと同時に仕事で海外へ渡った。母は付き添いなのだが。

 夫婦仲がとてもよく、母も仕事を持っていたというのにあっさり止めてついていった。

 階段を注意深く下りていくと、リビングから話し声が聞こえてきた。

 篤志は慌てて階段に戻る。この姿のままで人前には出られない。

 しかし、その音と聞きつけて亮平がリビングから顔をだした。

「篤? 起きたのか?」

 ビクリと躯を揺らして後ろを振り返ったが、そこに亮平しかいないのを見るとホッと息をついた。

 降りていこうか迷っていると、亮平がおもむろに篤志に近寄った。

「ちょっと来いよ」

 そういうと亮平はリビングへと向かった。

 何を考えているのか解からなかったが、このままじゃ行けないだろう。なにせ未だ服を着ていない。

「で、でも兄ちゃん・・。俺まだ服・・・」

 亮平はチラリと篤志を見たがまた正面を向いていった。

「・・・別にそのままでいいだろ?」

 いい様、亮平はリビングへと消えていった。

 篤志はしばらくその場に立ち尽くしていた。

 果たしてこのままで行っていいものなのだろうか。リビングには他にも誰かいるはずだ。

 一度着替えてこようと階段に一歩脚を出したとき、リビングから亮平の篤志を呼ぶ声が聞こえてきた。

 仕方が無いので、篤志は諦めてそのままリビングへと入っていった。

「・・・何?」

 誰かがいるのに呼んだ、ということは何か用事があるのだろう。

 しかし亮平は何も言わない。

 訳が解からず、篤志はふと亮平の隣りに座っている男を見詰めた。

 ・・・誰だ?

 見たことの無い男だった。

 それも当たり前だろう。篤志は家に寄り付かなかったのだから。

「コイツが弟? ふーん・・・」

 男は値踏みをするように篤志をジロジロと見詰めている。

 その不快さといったら無い。亮平の知り合いじゃなかったら、即殴っているところだ。

「俺に似て美人だろ?」

 亮平は飲んでいたらしいペットボトルを冷蔵庫にしまいに行きながら言った。

 篤志は居心地の悪さに、躯に巻いていたシーツを強く握り締めた。

「お前に似てるかは別として・・・。まぁ、綺麗な顔してるな」

 男の口許がいやらしく歪むのをみて、篤志は眉を顰めた。

「兄ちゃん、コイツ誰?」

 初対面でコイツとは失礼だったがそれはお互い様だろう。

「大学で知り合ったやつで、名前は新田武人(にった たけと)」

 よろしくな、と目を細める新田に目を向けた。しかし、次の瞬間には目をそらした。

 何故亮平は新田を篤志に紹介したのか・・・。

「なぁ、篤志」

 いきなり呼び捨てだった。しかも名前を知っているらしい。

 篤志の名前を呼んだ新田は、篤志に向かって笑いながら手招きしていた。

 誰が行くか・・・と、篤志は無言のまま、わずかに新田を睨み付けた。

「篤・・・」

 亮平の目が来い・・・と言っていた。

 仕方なく、篤志はよろよろと亮平のもとへと歩いていく。

「篤志はこっちだよ」

 新田が隣りを叩きながら篤志を呼ぶ。

 新田の言うことなど聞きたくなかったが、キッチンへと歩いていく亮平に仕方なく新田の隣りに座った。

「ホント、お前お兄チャンが大好きなんだな」

 え・・?と振り向いた時にはソファに押し倒されていた。

 手から離れたシーツが申し訳程度にしか掛かっていないに気付いた篤志は、シーツを掴みなおそうとしたがそれは出来なかった。

「何する・・・っ」

 言葉は新田の口唇の所為で最期まで言うことは出来なかった。

 生暖かい感触が篤志の口唇を覆うのに、篤志は吐き気すら感じていた。

「・・・てっ」

 口腔内をいいように舐めまわす新田の舌をわざと強く噛んだ。

 まずい味が口の中に広がったが、新田の舌が出て行ったので我慢することにした。

「・・・やってくれる」

 ニヤリと笑った新田はもう口唇には用がないとでも言ったように下へ顔を持っていった。

 その時痛みが篤志の躯に走った。

 新田が仕返しとでもいうように篤志の鎖骨に歯を立てていたのだ。

 ギリギリと食い込むそれに、篤志は手が不自由なために躯を捩ることしか出来なかった。

「いた・・っ。痛い・・・っ」

 どんなに痛みを訴えても新田はそこから離れることはなかった。

 次第に感覚が麻痺していく。痛いのが和らいでいく気がしていた。

「ん・・・」

 篤志の躯がピクリと揺れた。

 噛まれた箇所を今度は柔らかい舌で舐められている・・・。

 なぞるようなその動きは篤志に快感を与えていく。

 下肢をもぞりと動かした篤志に、新田は上唇を舐めると篤志の立ち上がりかけているものを緩く掴んだ。

 そのまま上下にゆっくり扱くと篤志の口唇から甘い喘ぎ声が引っ切り無しにあがるようになった。

「や・・・ぁ・・っ。やめ・・・」

 快感に抵抗する力が弱くなる。

 その時、カタンと物音が篤志の耳に聞こえてきた。

 ハッと我に返った篤志は、音のした方に顔を向けるた。そこには亮平がコップを持って立っていた。

「たすけ・・・っ。兄ちゃ・・・あぁ・・・っ」

 新田の指が篤志の躯の奥へ入り込んだ。

 亮平との行為の所為でまだ腫れているそこは、篤志に快感と苦痛を同時に与える。

 それでも篤志は亮平を見ていた。

 しかし、亮平は何をするでもなく、ただ二人を・・・篤志を見詰めていた。

 何故亮平が何もしようとしないのかが解からなかった。

 昨日は篤志を抱いたのに・・・。

「本当にいいのかよ?」

 新田の声が聞こえてきた。

 しかし、それは篤志にではなく亮平に言っている。

「別に?勝手にやれよ」

 躊躇も無く言われた言葉。

 これは全て仕組まれたことだった・・・?

 どんどん圧迫感が増すが、篤志は絶望感に何も考えられずにいた。

 抵抗もいつまにか止めていた。

 兄ちゃんは俺のこと、何とも思ってなかったんだ・・・。

 律動に揺れる篤志の躯は快感だけを篤志に伝える。

 自分の口唇から漏れる声が、どこか遠くで聞こえていた。

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