#3

 夏はとうに過ぎ、冬になろうとしていた。

「最近さ、どうしたんだよ?・・・なんか、篤志変わった・・」

 瑞生とは未だ関係が続いていた。

 安っぽい音をたててベッドが軋む。

「だいたいさ、凄い嫌がってたのに・・・」

 瑞生が篤志の首筋に顔を埋めた。

 鎖骨に近いそこを舐められた篤志は、目を閉じたまま艶やかな吐息を漏らす。

 篤志の脚を押し開くように両腕で抱えている瑞生は、篤志の躯の上で一定のリズムを刻んでいた。

「う・・あ・・・っ。も・・っと・・激しく・・し・・・」

 今でこそ平然としているが、突然の篤志の変化に瑞生は驚いていた。

 夏が終わるか終わらないかの頃、いつもと同じに落ち合いホテルに入った。

 そこまではいつもと全く同じだったのに、その行為に入った時、篤志が口にしたことは・・・。

―――たまにはお前・・・入れる・・?

 最初は冗談だと思った。からかわれていると思い、瑞生はそのままのノリでそれに同意した。篤志は断ると思ったのに・・・。

 自分から脚を開きにかかる篤志に、瑞生は慌てて篤志を制した。

―――いいからやれよ。・・・やってくれ・・。

 泣きそうな顔をして言った篤志。

 最初は、あまりに兄を思いすぎて自棄になっているのか、と思った。

 途中で降参するだろう、と思っていた瑞生だったが、篤志に愛撫を施していくうちに篤志が初めてじゃないことを知る。

 快感に身を任せている篤志に何があったのかを聞き出すことは容易だっただろうが、瑞生は黙ったまま篤志の躯を犯した。

「今日も泊まってくのか?」

 目を覚ました篤志の髪の毛を梳きながら瑞生は聞いた。

 ここの所、篤志はずっと自宅へ帰っていない。

 何処かへ出かけても、最期は瑞生の家へ帰ってくる。

「・・・駄目か?」

 篤志は目を伏せたまま、瑞生のいいようにさせていた。

 瑞生は少し微笑って、いいよ・・・と言うと、キッチンへと消えていった。

 それを見送った篤志は、溜息をひとつ吐くとベッドに転がる。

 あの日から2ヶ月が過ぎた。

 今でも鮮明に思い出せるほど、あの時のことは篤志の脳裏に焼きついている。

 大好きな兄を前にして、他の男に抱かれた・・・犯された自分・・。

―――別に?勝手にやれよ

 亮平の言葉が忘れられないでいた。

 あの言葉を聞いてから、篤志は抵抗を一切止めて新田のなすがままだった。






「酷いヤツだよな。お前の兄貴はよ」

 いつも新田は勝手に篤志に話しかける。篤志が返事をしなくても続けるのだから、返事は必要ないのだろう。

 その日も篤志は黙ったまま、ただ新田の隣りにいた。

 新田はベッドに躯を預けたまま、上体だけを起こして煙草をふかしている。

 初めて抱かれた日から、篤志は新田に抱かれつづけていた。別に強制されているわけではなのだが・・・。

「知ってたか?お前を初めて抱いたあの日の前、アイツ試験で初めて3番から落ちたんだぜ」

 笑いながら言う新田の声が、おぼろげに篤志の頭に入ってきた。

 新田が篤志をはじめて抱いた日の前、すなわち亮平が篤志をはじめて抱いた日だ。

 あの日から、亮平は一度も篤志に触れてこなかった。

 正確にはあの日から一週間は。その後は耐え切れなくなった篤志が家を出てしまった。

 亮平と一緒にいると、躯が疼くようにそのことしか考えられなくなる。それなのに、亮平は篤志に触れてこない。

「・・・お前、これでいいのかよ」

 躊躇がちに言う新田を不思議に思っていた。

 いいもなにも、新田が誘ってくるのではないか。

 頭の中で思っていても、実際に口からは出てこなかった。

 何も言わない篤志に溜息を吐いた新田は、ベッドから降りると服を投げつけてきた。

「ほら。・・・帰る時間だろ」

 篤志はのそのそと起き上がると身支度をはじめた。

 別に時間なんてどうでもよかったが、新田が帰れというのなら帰ろう。

 服を着込んだ篤志は、玄関に向かい歩き出した。

 挨拶はいつも無しだった。

「送ってってやろうか?」

 振り返ると咥え煙草のままで篤志を見ている新田と目が合う。

 初めて言われた科白に一瞬だけ目を揺らしたが、篤志は首を横に振るとそのまま靴を履いて外へでた。

 送ってもらう必要などないのだ。篤志は家へ帰るのではない。瑞生の所へ行くのだから。






 昼間に服を取りに行くといって瑞生の家を出た篤志は、電車に揺られながら亮平のことを考えていた。

 家には亮平がいるかもしれない。

 ふと気付くとそれを期待している自分がいた。

「・・・何、考えてるんだよ」

 もう二度と亮平が篤志に触れることなどないのに。

 例え篤志が望んでいたとしても・・・。

 溜息を吐いた篤志は目の前に建つ家を見上げた。

 電車から降り、駅から家までの道のりをとぼとぼと歩いている間、亮平のことしか考えられなかった。

 ・・・重傷だな。

 篤志はもう一度だけ溜息を吐くと意を決して扉を開けた。

 シンとした家の中。どうやら亮平はいないらしい。

「・・・なんだ・・」

 馬鹿みたいだ・・・と呟いた篤志はさっさと階段を上がっていった。

 亮平が帰ってこないうちに。

 何だか矛盾しているな、と自分でも思う。だが、仕方が無いのだ。

 逢いたいと思うのも本当だが、逢いたくないと思うのも嘘ではないのだから。

 自室に入った篤志はムッとした空気の中で荷造りを始めた。

 2ヶ月の間、きっと一度も開けられなかったのだろう。

 ある程度の服を鞄に詰めた篤志は、躊躇もなく部屋を出た。

 これで終わるのかもしれない。

 別に始まってなどいないのだから終わりなど無いのだが、篤志は少しだけ寂しくなっていた。

「篤・・・?」

 ハッとして前を向いた。

 階段の下で亮平が篤志を驚いたように目を大きくしてみていた。

「兄・・・ちゃ・・」

 ・・・どうしよう・・・・・・。

 突然の亮平の登場に、篤志の頭は混乱していた。

 頭の中は真っ白で、何も考えられない。

 亮平は、丁度今帰ってきたらしく玄関のドアノブを掴んでいた。

 それを静かに閉めた亮平は、靴を脱ぎつつ篤志に話し掛けた。

「お前何処行ってたんだよ。心配するだろう」

 嘘だ・・。

 心配したのならもっと探したはずだ・・・と、篤志は口唇を噛み締め顔を俯けた。

「篤・・・」

 いつの間にか目の前に来ていた亮平が篤志の肩に手を置いた。

 そんな小さなことなのに、篤志の躯がビクリと震える。

 顔を上げると亮平は篤志の持っている鞄に気付いたらしく、それをジッと見詰めていた。

「何処か行くのか?」

 篤志を見詰めながら言う亮平に、篤志は口をあけたが言葉が出なかった。

「・・ぁ・・・」

 ニヤリと笑った亮平が、篤志から離れて階段を上っていく。

 それを目で追っていると、不意に亮平が篤志を振り返った。

「来るか?」

 その顔は笑っていた。

 いい様、亮平は二度と振り向かずに自室へ入っていく。

 行ってしまえばあの日の繰り返しだ。

 また犯されて終わる・・・。

 けれど・・・・・・。

 気がついたら亮平の自室のドアを開けていた。

「・・・ここまで来いよ」

 ベッドに座って篤志に手を差し伸べている亮平を見る。

 その手は決して掴めない。それなのに、篤志はその手に手を伸ばす。

 手が触れた瞬間、強く引っ張られた。

「・・・お前から来たんだぜ?」

 ニヤニヤと笑って篤志を見る。

「・・・抱いてくれるの・・?」

 亮平の胸に手を置いた。服のボタンを外していく。

「・・篤・・・?」

 呼ばれて顔を上げると、そこにはもう笑っていた亮平はいなかった。

 怪訝な顔をして篤志を見ている。

 シャツのボタンを全て外し終わった篤志は、今度はズボンのボタンを外してファスナーを降ろした。

「おい、篤・・・っ」

 亮平が慌てたように篤志の頭を掴んで止めた。

 今、篤志は亮平の性器を咥えようとしていたのだ。

 止められた篤志は、虚ろな目で亮平を見上げた。

「・・・どう・・したんだ・・・よ・・・?」

 戸惑ったように亮平が瞳を揺らしている。

「はやく・・・。奥まで入れてくれよ・・・」

 篤志は手を伸ばして亮平の首筋へ絡みついた。

 

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