#4

 相変らず、篤志は瑞生と会っていた。

「最近は家に帰ってるんだな」

 不意にいった瑞生の言葉に、篤志は無表情で返した。

 瑞生の言うとおり、あの日から家に帰っているのだ。

 以前にも増して、篤志は感情を出さなくなったと瑞生は思う。

 以前もそれほど感情を出さない男だったが、今ほどではなかったはずだ。

「・・・兄貴とどうなんだよ?」

 前から聞いてみたいことだった。

 以前この家に泊まっていたとき、きっと兄貴と何かあったのだろう、と思っていた。

 あの時は聞けなかったが今は聞けるかもしれない。

「・・・別に」

 そう言ったきり、篤志は何も話そうとはしなかった。

「それより・・・」

 篤志がベッドに座っている瑞生にしな垂れかかる。

 もう慣れたが、篤志はよくベッドに・・・色事に誘う。

 以前はそうではなかった。まず、瑞生が誘っていたのに。

 何もかもが変わってしまった。

「なぁ、たまには篤志がやるか?」

 以前とはまったく逆の言葉だった。

 あの、篤志がおかしくなった日から、篤志は瑞生を抱いていない。

「・・・別に、いいよ。お前がやれよ」

 言ってる最中も瑞生のシャツのボタンを外している。

「俺もたまにはお前に入れて欲しいんだよ」

 目の前に揺れる篤志のコメカミに口付ける。

 それは嘘ではなかったが本当でもなかった。

 セックスのこととは関係なく、以前の篤志に戻って欲しい。

 今の篤志はまるで抜け殻のようだった。

「・・・・・・きっと上手くいかないよ」

 今まで忙しなく動いていた篤志の指が止まった。

 最初が強烈だったからな、と小さく呟いたそれに、瑞生の目が大きく見開かれた。

「も、しかして・・・、篤志、誰かに・・・」

 無理矢理されたのか・・・―――?

 その科白は言葉にならなかった。

 篤志は瑞生の言葉に返事を返すでもなく、再び瑞生のシャツに手をかけた。






 安っぽいベッドの軋む音。

「やぁ・・・っ・兄ちゃ・・・っ」

 相変らず瑞生としながらも兄・亮平を呼ぶ篤志。

「篤・・・」

 薄っすらと篤志の瞼が開く。揺れる睫毛は涙で濡れていた。

その篤志はゾクリとするほど色っぽい。

「篤志・・・」

 ビクッと篤志の躯が揺れた。

 普通に呼んだのはこれが初めてだった。

「篤志。俺の名前、呼べよ・・・」

 律動に揺れ、互いの汗が飛び散る。

 何故呼ばせたか、なんて、解かりすぎるほど解かっていた。

 だが、それは叶わぬことだと知っているから。解かっているが悔しい。

 一瞬だけでも、その名前を呼ぶ瞬間だけでも篤志を独占したい。

「み・・ずお・・?」

 戸惑う篤志と目が合った。

 何も言うことが浮かばなくて、仕方なく瑞生は篤志の口唇を塞いだ。

「んぅ・・っ」

 その間も篤志の最奥を穿つものを激しく動かす。

 口唇を合わせながらも漏れる篤志の声は、何よりも艶やかだった。

「篤志・・・っ」

 強い衝撃とともに躯の奥に熱いほとばしりが篤志を襲う。

 その瞬間、篤志も達していた。

 荒い呼吸を繰り返していると、不意に瑞生の口唇が啄ばむように篤志のそれに触れた。

 何度も角度を変えて重ねられるその口付けはくすっぐったかった。

「・・・何だよ?」

 笑いながらも瑞生を止める気はなかった。

 段々深くなっていく口付けに、果てたはずの欲望が再び蘇るのを感じていた。






 目が覚めると、隣りに瑞生が眠っていた。

 熟睡しているらしく、頬を抓っても起きる気配がまったく無い。

 溜息を吐いて上体を起こした篤志は、その場で座ったまま視線を落とした。

 今日の瑞生は何処かおかしかった。

 おかしいのは自分もそうだ、と篤志はもう一度溜息をつく。

 亮平が2度目に篤志を誘ったあの日、結局亮平は篤志を抱かなかった。

 突然の拒絶を受けてしまったのだ。

 亮平に突き飛ばされた篤志はベッドに座ったままの亮平を呆然として見詰めたが、亮平に出て行け、と言われ篤志は何も言えずあの部屋を出た。

 あの日からまた数日たった今、あれから一度も亮平は篤志に触れない。

 そして、また瑞生を亮平の代わりとしているなんて・・・。

「・・・兄ちゃん・・」

 家にいると、たまに亮平を視線を感じる時がある。

 今日こそ・・・と、期待して待つのだが、亮平からは何も言ってこない。

 たまに自分が浅ましくに思えるときがある。しかし、それも仕方が無いのだろう。

 実際、そうなのだから・・・。

back top next

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送